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小説/気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた

【第17話】彩子は腹が立ったが、何も言えなかった


西にぺらぺらと自分の話をする彩子。だが、実家について聞かれると、喉の奥に何か、かみ損ねたものが詰まって流せないでいるような違和感を覚え――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か
第13話 わたしはわたしで、仕事をし、家族を守る
第14話 仕事が長続きしないのは、いつも人間関係にあった
第15話 自分がちっぽけで価値のない存在のような気がした
第16話 不思議と、西には自分のことを話したいと思った
第17話 気づくと、実家に彩子の居場所はなくなっていた←今回はココ

■今回の主な登場人物■
岡崎彩子…派遣社員として食品メーカーに勤める
西…菜々の同期で彩子と同じ職場で働く

2人の特別な共通点であるかのように言った

「偶然ですね」

 と、西が言い、彼も自分の出身県を告げた。

 偶然というが、彩子の出身県の隣の県名である。びっくりするような話でもあるまい。おまけに西は、彩子の出身県の名産物や観光地など、まあまあ常識的な情報を、あたかも自分だけが知る秘密を告げるかのように告げてくる。まるで、それを知っている自分を彩子に特別な存在として印象づけたいかのように。

 そんな彼の言い方に、彩子はなんだかほっとし、小さく笑った。少なくとも、この人はわたしをないがしろにはしていない。そんな気がした。

 彩子の笑顔を見た西は、うれしそうに顔をほころばせた。そして、

「一人暮らし組ですね」

 と、それもまた、2人の特別な共通点であるかのように言った。

「12年になります」

 彩子は言った。

「あー、同じ」

「ですよね」

 短大進学と同時に一人暮らしを始めた。といっても最初は学校のそばの女子寮で暮らし始めた。当初、彩子の親は短大を卒業したら彩子が帰ってくると考えていたようだった。しかし、教授の推薦で税理士事務所で働くことになったと伝えると、戻ってこいとは言わなかった。彩子がアパートを借りるときには保証人になってくれたし、寮暮らしで安く済んだからと初期費用を全て持ってくれた。

 そのことを彩子は感謝しているが、両親がこんなに快く彩子の独立を支えてくれたのは、兄の結婚が決まったからだろうと分かっていた。

次ページから読める内容

  • これ以上、実家の話をしたくはなかった
  • 兄家族からの侵食が始まった
  • 彩子は声をあげて泣いた
  • 詮索しすぎだとはもう思わなかった

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朝比奈あすか 小説家
朝比奈あすか

会社員を経て、2000年にノンフィクション『光さす故郷へ』(マガジンハウス)を刊行。06年、群像新人文学賞受賞作の『憂鬱なハスビーン』(講談社)で小説家としてデビュー。以降、働く女性や子ども同士の関係を題材にした小説をはじめ、多数の作品を執筆。代表作に『人生のピース』『ななみの海』(共に双葉社)『あの子が欲しい』(講談社)『さよなら獣』(中央公論新社)『人間タワー』(文芸春秋)『君たちは今が世界』(角川書店)『翼の翼』(光文社)など

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