自分自身がお飾りの課長にすぎないと感じていた愛美は、ソファに座りながら、大原や会社が愛美を課長に昇進させた理由に思いをはせた。自分の力を買ってくれたと思いたかったが、会社の思惑は、愛美の想像を超えていた。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!
第12話 「女性ということで」とは一体どういう意味か←今回はココ

■今回の主な登場人物■
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
大原…インターネット企画部長で、愛美の直属の上司
圭壱…愛美の夫で、飲食チェーンに勤める

会社の思惑に当てはまったのではないか

 インターネット企画部は、新設の部門で、大原がデジタル推進部長と、部長職を兼任することで成り立っている。加えて、愛美以外の部員3人もデジタル推進部と兼務しているのだ。

 1つの部を新設した理由について、そのほうが予算を取りやすい、広告とクリエイティブを分けたほうが体制の整理がしやすい、などという話をされた気がする。その際大原は愛美を会議室に呼び出し、課長に推そうと思っていると言った。

「年若いことや、女性だということでいろいろと騒がれるかもしれないが、ぜひ覚悟と意欲を持って取り組んでもらいたい」

 大原を心底信頼していた愛美は、

「ありがとうございます」

 と頭を下げた。

 だけど、心のどこかでかすかに「年若い」はまだ分かるけれど、「女性だということで」とは一体どういうことだろう、と思った。

 入社して以来、社内で男女不平等を感じたことはない。終身雇用を考えて就職活動をした愛美にとっては、説明会や面接に現れる女性社員の姿が少なくなかったことも、この会社の志望動機の1つだった。食に密着した会社だからこそ、女性社員の意見も大事にされているのだろうと思った。実際に、同期の男女比はちょうど半々だった。商社や他メーカーに就職した友人たちの話を聞く限り、ジェンダーギャップのない会社だと思い、誇らしかった。

 社内初の20代女性課長となり、そのことで周囲からちやほやされるようになってみて、愛美に見えてきたことがある。

 たしかにこの会社は、女性社員の数が多い。

 しかしながら、リーダーの数は? 女性部長は? 女性の取締役は?

 会社は、とにかくインスタントに「20代の女性課長」をつくりたかったのではないかと、今になって勘繰っている。2児の母であり、新企画をたまたま運よく軌道に乗せた自分は、パズルの1ピースのように、会社の思惑に当てはまったのではないか、と。

 愛美を課長に推挙した大原に、そこまでの読みがあったかは分からない。愛美としては、大原は自分の力を買ってくれたと思いたい。

 しかし会社の思惑は、愛美の想像を超えていた。

次ページから読める内容

  • 会社は、愛美に甘え続ける
  • 会社のあちこちで取締役らに声をかけられるようになった
  • なんだかいつも疲れている
  • 会社は愛美の案を受け入れなかった

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