愛美はソファに座りながら、これまで築いてきたキャリアをふと振り返る。そんな中ショットバーでの出来事を思い出し、ベビーシッターの件以上のもやもやが心の中に芽生え――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた
第11話 なにが「同期初の女性部長」だよ!←今回はココ

■今回の主な登場人物(食品会社の同期たち)■
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
大原…インターネット企画部長で、愛美の直属の上司

部長の大原が、愛美の状況を理解してくれた

 愛美の直属の上司であるインターネット企画部長の大原が、愛美の状況を理解してくれたのは、とても大きなことだった。

 母親の闘病について打ち明けると、大原は、地方で一人暮らしをしている父親が人工肛門をつけていると打ち明けた。今は大丈夫だが、いずれ引き取って同居するか、施設に入れるかを常に考えており、奥さんと毎日のように話し合っているそうだ。

 同じ病気の家族を持つ大原は愛美を気遣い、仕事面での融通を利かせてくれた。

 愛美が考えた、自社の冷凍食品の最適な解凍方法を都度短い動画にしてQRコードから飛べる場所に検索しやすくまとめるという販売戦略案を、実現へと働きかけてくれたのも大原だった。

 愛美の発案を基に立ち上げたレシピ紹介サイト『コトコト』は、初動で予想を超える成功を収めた。

 それを機に、デジタル推進部の中にコトコトチームが立ち上がり、愛美はチームリーダーとなった。コトコトをさらに発展させようと、アレンジ料理の紹介や製造工程のショートムービーなどを配信していく企画を立てた。

 その頃には、愛美は自分が生んだ『コトコト』をすっかりいとおしく思っていた。より内容を充実させて、皆に楽しんでもらえるものにしたいと張り切っていた。チームのリーダーという立場はおまけのようなものにしか思っていなかったのだ。

 しかし大原は、社内の予算を引っ張るために『コトコト』を独立部門にし、その責任者に愛美を据えることを提案したのである。

 組織改編などめったに行われない保守的な社風ではあるが、ネット部門については上層部に知識がないためか、新しい意見が通りやすかった。

 大原の声も大きかったのだろう、デジタル推進部と並立してインターネット企画部という新設部門がつくられることになった。大原がデジタル推進部長とインターネット企画部長を兼任し、その下の課長職に、突然愛美が任命されたのである。

次ページから読める内容

  • 好循環のただ中に、愛美はいた
  • 愛美もそのうちの1人だった
  • 心の中に黒々としたもやがあった
  • あいつら。何にも分かっていない

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