拓也と菜々の新居に呼ばれた同期の仲間たち。解散後、麻衣と愛美、北川、坂東の4人は、駅前のショットバーに行く。変わってしまった愛美にショックを受ける麻衣。そして、自分自身も大きく変わったきっかけをふと顧みる――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました←今回はココ

■今回の主な登場人物(食品会社の同期たち)■
板倉麻衣…5年ほどで会社を辞め、WEBライターとして活動中。新人時代に拓也と付き合っていたことがある
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
坂東、北川…同期の男子メンバー
Mizuna先生…アロマデザイン教室の講師をしながら、老人ホームでボランティアをしている

「(たばこ)吸うんだ?」

 地下にあるその店へ階段を下りて行き、扉を開けた瞬間、麻衣はつい「げっ」と小さく漏らした。

 たばこの煙が充満していたからだ。

 即座に店を変えようと言うべきだったが、つい機を逸してしまったのは、自分が言わなくても愛美が言うと思ったからである。

 しかし、

「こういう店、久しぶり~。なんかわくわくする」

 と、愛美は明るく言ったのだ。麻衣は驚いて愛美を見た。彼女は本当にわくわくしているような顔である。

 ひとまず席を探し、交代で飲み物を取ってきてから皆で乾杯した。

 店内にいる客の多くは大学生くらいの顔つきだ。隣の席の4人組は土曜日なのにスーツ姿で、その顔つきはつるりとかわいらしい。若返った気分になって、麻衣はちょっと楽しくなった。

 しかし、

「こういうノリ、懐かしいよな」

 坂東が言い、

「新人の頃を思い出すね」

 愛美がうれしそうに返した瞬間、麻衣は急に、心のどこかを突かれた気がした。自分たちが遠いところまで来てしまったことに気づかされた。

 どこがどうとはっきり言葉にして言えるわけではないが、たとえばすでに懐かしんでいるところ。

―― 新人の頃を思い出すね。

 そう、わたしたちは思い出していて、あの子たちは真っただ中にいる。

 新入社員の頃は、カラオケやボーリングなどのイベントの後、こういうチェーン店でわいわい飲むのが楽しかった。見た目的には自分たちもギリ学生に溶け込めるし、なんだか懐かしい気分にもなる。この、たばこの匂いを除いては。

 2杯目に入る前に、

「いい?」

 と、北川がたばこを取り出した。彼は昔から喫煙者だった。麻衣は愛美をうかがった。すると、「わたしも」と言って、愛美もたばこを取り出したのだ。

「吸うんだ?」

 麻衣は驚いた。

「日に2本までって決めてるし、家では吸わないよ」

 言い訳するように、愛美は言う。家で吸わないということは、会社の、年々隅に追いやられている狭い喫煙室で吸っているのか。

「意外。嫌いじゃなかった?」

 愛美は答えず、

「麻衣はもう吸わないの?」

 と、麻衣に尋ねた。

「わたしはやめた。逆にきついし、今この匂い」

 正直に言うと、「ごめん」と愛美はたばこをバッグに戻そうとした。

「いいよ、1本だけでしょ。どうせ北川も吸ってるし」

 麻衣は言った。

 「悪い」と言って、北川が外に向けて煙を吐く。愛美も麻衣に煙を向けないようにして吸った。

 2人がそうやって気を使ってくれても、店全体がたばこにゆるい感じなので、あまり意味なかった。麻衣は、せっかくつけてきたオリジナルの香水が、この匂いに上塗りされてしまうことが嫌だった。肺が汚れる感じもして、ここにはあまり長く居られないなと思った。

 愛美が吸うこともショックだった。

次ページから読める内容

  • 香りの勉強をすることで、麻衣自身の生き方が大きく変わった
  • 嗅覚は「本能の感覚」
  • 麻衣の心をときめかせた

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