子どもたちを寝かしつけた後、ベビーシッターのマッチングサイトのクチコミ欄にシッターのことを思いっきり悪く書いてやろうと思ったが、ふと冷静になった途端、その気持ちが薄れ――。

【これまでのお話】
プロローグ 新連載・小説「ミドルノート」同期の男女の生き方描く
第1話 新居に同期が集まった夜
第2話 同期会解散後、夫の口から出た思わぬ一言
第3話 妻を無視する夫 「ほんと鈍感だろ、こいつ」
第4話 「妊婦が人を招くなんてドン引き」夫の言葉に妻は
第5話 言っちゃ悪いが無味乾燥で、寒々しい新居だった
第6話 充満するたばこの煙が、昔の記憶を呼び覚ました
第7話 正直言って、事故みたいに始まった恋愛だった
第8話 わたしは誰よりも愛美に認めてもらいたかったんだ
第9話 その後ろ姿を見ていたら、急に切なくなった
第10話 がんは知らないうちに母の体の中で育っていた←今回はココ

■今回の主な登場人物(食品会社の同期たち)■
江原愛美…同期の中では早く昇進し、産休・育休を経験したワーキングマザー
ベビーシッター…愛美が拓也と菜々の新居を訪問している間、子どもたちと留守番をしていた女性

愛美の気持ちはしゅるしゅるとしぼんでいった

 1階に下りても、すぐに座ることはできなかった。シッターと子どもたちのいた居間はいつもより散らかっていた。流しには、子どもたちが食べ終えた皿が、山積みのまま置いてある。

 もちろん食器の片付けはシッターの仕事ではない。彼女にこれを洗う義務などない。だが、さきほどの、子どもたちにテレビを見させて自分はスマホをいじっていたあの姿を思い出したら、放置された皿がひどくいまいましく見えてくるのだった。

 愛美は重たい体にむち打つような思いで、食べ残しを乗せた皿たちを流しで洗い、ダイニングテーブルを片付けた。テレビの前に散らかっていたおもちゃも隅に寄せた。よく見ると、カーペットのあちこちに菓子の食べかすがぽろぽろ落ちている。この時間でなければ、すぐに掃除機をかけたかった。

 それから愛美はようやくソファに座り、スマホを手にとった。契約している、ベビーシッターのオンラインマッチングアプリを立ち上げる。今日のシッターについての評価アンケートを書くためだった。

 子どもがテレビの真ん前に座っていたこと、注意もせずに離れたところでスマホをいじっていたこと、台所がぐちゃぐちゃになっていたこと……。

 クチコミ欄に思いきり書いてやろうと思った。

 しかし、いざスマホの画面を立ち上げると、愛美の気持ちはしゅるしゅるとしぼんでいった。

次ページから読める内容

  • よく考えてみれば、今日は彼女がいたから外出できた
  • 病気は知らないうちに母の体の中で育っていた
  • 母にいつまでも頼れるわけではない

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