昨年、日経DUALでは、パパの働き方特集の一つとして、仕事と育児をうまく両立させているパパ達にご登場いただき、両立ノウハウを聞く「パパの両立テク&凄い夫 四天王」を展開しました。今回は、新たな年を迎え、「共働き夫・イクボス四天王2017」を特集します。

 長時間労働が当たり前の日本で働き続けてきたパパ達が、子どもが生まれ、子育てに関わりたいと思ったとき、社会ではどんな困難が待ち受け、それをどう夫婦で乗り越え、家族の絆を築いているのでしょうか。「共働き夫・イクボス四天王2017特集」では、壁にぶち当たりながらも自分流のノウハウを用い、仕事と子育ての両立を図っているパパ3人と、両立パパのよき理解者で自身も子育て真っ最中のイクボス1人にご登場いただきます。

 第1回の今回は、男性学の第一人者である田中俊之先生(武蔵大学社会学部助教)ヘのインタビューをお届けします。田中先生も1歳の子どものパパです。昨年の特集では、パパ達へのアンケートから「育児参画のために残業を減らした」パパが多いことが分かりました。もちろん働くママも同じですが、周囲に気遣いながら定時に帰り、帰宅後の時間を育児に充てているパパ達の苦悩が見えてきます。田中先生は、自身の体験からも、「真面目に育児に取り組んだら、これまでと同じペースで仕事は続けられない」と言います。そんな田中先生に、両立パパが直面している問題や解決策、また、両立しやすい社会に近づけるために、今、私達ができることを聞きました。

【共働き夫・イクボス四天王2017特集】
第1回 パタハラ問題はイクメンのステージが一歩進んだ証拠 ←今回はココ
第2回 フォロワー3000人ツイッターパパのパタハラ迎撃策
第3回 子が4人のオムロンパパは妻ファーストで家庭を回す
第4回 下の子入学、ここから巻き返しを図る公務員パパ
第5回 P&Gのイクボスは育児優先で部下とウィンウィン

田中俊之
1975年、東京都生まれ。武蔵大学社会学部助教。博士(社会学)。専門領域は男性学、キャリア教育論。男性学の第一人者として、新聞、ラジオ、ネットメディアなどで活躍。著書は『ソシオロジカル・スタディーズ』(世界思想社、共著)、『揺らぐ性/変わる医療』(明石書店、共著)、『男がつらいよ 絶望の時代の希望の男性学』(KADOKAWA中経出版)、『<40男>はなぜ嫌われるか』(イースト・プレス)、『男が働かない、いいじゃないか!』(講談社+α新書)、『不自由な男たち その生きづらさは、どこから来るのか』(共著、祥伝社新書)など多数。

育児に関わるなら、仕事のペースは落としていい

 昨年、息子が生まれました。以来、毎日、18時に帰り、お風呂に入れていますが、育児に真面目に取り組もうと思ったら、とてつもなく大変です。子どもができたからといって、個人の能力が急激にアップするわけではありません。 初めての子どもならなおさらのこと、経験がないのですから、不安だらけです。ただでさえ仕事でいっぱい、いっぱいのところに育児が加われば、今までと同じペースで仕事を続けるのは無理があります。

 私は、これまで夜に行っていた執筆活動は、まったくできなくなりました。夜の3時間、育児にとられている分、3時間分の仕事のアウトプットが減りました。

 育児に積極的に関わる男性を「イクメン」と呼ぶようになって久しいですが、育児への関心を集め、「気づきを与えるため」の言葉としては効果的なキーワードでした。

 ただ、私が気になるのは、「フルタイムで働き、家事や育児もてきぱきこなす男性」といったイクメン像が独り歩きしている点です。

  実際に仕事と育児を両立させている男性の嘆きや葛藤は語られず、「どうやったら仕事と育児を両立できるのか」といった具体的な話もなく、 “育児も仕事もてきぱきできる男性”が素晴らしいというイメージが増殖してしまったように思うのです。

 人一人の一日当たりのパフォーマンス量はほぼ決まっているわけですから、育児に参画するのなら、その分、仕事を減らさなければなりません。でも、男性には、「俺が働く」的な呪縛があるうえ、優秀なイクメン像に囚われていますから、仕事も家事も育児もどんどん積み上げてしまいます。それができないと、「できるのが普通なのに、自分はできていない」と落ち込み、「それでもやらねば」と、追い込んでしまいます。私はそれを懸念しています。