LとRの聞き分けができるのは1歳ごろまで
そもそも赤ちゃんは言葉をいつから認識するのでしょうか。実験からは、赤ちゃんは生後5日以内ですでに言葉を聞き分けていることが分かっています。小泉英明さん(日立製作所役員待遇フェロー)らがフランスで行った共同研究では、生後5日以内の赤ちゃんに母国語を聞かせたところ、いずれ言語に関わる部分になると思われる左脳の一部が反応しました。
「イタリアでも同様の実験をしました。今度は母国語を、テープを逆回しして聞かせたところ、音の大きさや周波数は変わっていないのに、母国語を聞かせたときと比べて途端に反応が小さくなったのです。つまり、生後5日以内でも言葉を言葉として聞き分けているということが分かりました」
かつて「赤ちゃんは純白の紙のような状態で生まれてきて、外からの刺激や教育を受けて初めて脳は機能を獲得する」という説がありましたが、胎内にいるときから聴覚は働いており、生まれる前から母親のしゃべっている言葉を聞いている可能性があるのです。
これまで、特集1回、2回で見てきた通り、五感には臨界期があります。よって聴覚にも臨界期が存在します。赤ちゃんは、どの国の言葉にも適用できるように生まれてくるため、英語のLとRも生後1年くらいまでは聞き分けられるとされます。その後は、脳の機能を自分の母国語に合わせて調整してしまうので聞き分けられなくなっていくのです。
では英語習得のために、その時期まで英語の音声を聞かせ続ければよいのでしょうか。
母音や子音の識別能力は周波数の問題
小泉さんはそれには同意しません。
「母音や子音の識別能力は周波数の問題なので、自然界の豊かな音を聞いているほうが識別能力が育つと思います。この研究はまだしていませんが、自然界の音を聞いて聴覚を鍛えたらLやRを聞き分けられるようになる可能性は十分あります。仮説ですが、自然界の音を敏感に聞ける耳が育つと、語学能力もつくのではないでしょうか」
小泉さんは「英語学習においては音の臨界期にこだわる必要はない」と言います。
「ある程度大きくなっても言語の習得は可能です。外国から来たお相撲さんは日本語が上手ですよね。彼らは10代などで来日しても、日本語しか聞こえない環境で相撲のために必死で頑張るので、あっという間に日本語を覚えます。英語を学ぶうえでは彼らを参考にするとよいでしょう。要は、意欲の問題です。また、外国人とコミュニケーションを取るためには、細かな発音より、人間としての魅力や、自国の文化への理解、共感力の高さなどのほうが大切だと私は思っています」
十文字学園女子大学特任教授の内田伸子さんも、英語の早期教育には反対派です。