「わが子の能力を伸ばしたい」「わが子に幸せな人生を送ってほしい」。そう願うパパ・ママにとって、子どもが小さいうちから親ができる早期教育は関心の高いところでしょう。ただ、世の中には様々な教育法があり、「○歳までに△△をしておいたほうがいい」などといった情報や意見を耳にし、迷うことも多々あります。何をすれば子どものためになるのか、ならないのか。今回の特集では脳科学や発達心理学、モンテッソーリ教育などの専門家に、早くから何かを「教える」よりも、根本的な「意欲」や「やり抜く力」を伸ばすことの重要性について話を伺いました。
 第1回は、知育を重視した早期教育について、専門家の意見を紹介していきます。

【“教えない”早期教育特集】
第1回 詰め込み型早期教育の「これは間違っている!」 ←今回はココ
第2回 知育より「意欲を鍛える」 実践したい5つのポイント
第3回 「9歳の壁」も乗り越えられる 習慣と部屋づくり
第4回 バイリンガル目指すなら幼少期から英語を習うべき?
第5回 そろばん・公文で自ら勉強する子になるのはなぜ?

「脳は3歳までに完成するので、ぐずぐずしていると手遅れに」はホント?

日立製作所役員待遇フェローの小泉英明さん
日立製作所役員待遇フェローの小泉英明さん

 「脳は3歳までに完成するので、ぐずぐずしていると手遅れになる」。そんな言葉を聞いて「子どもに何か習わせなくては」と焦った経験のある人は多いでしょう。これは脳科学から見て、本当なのでしょうか。

 「まず、生まれてから小学校入学ごろまでは、人間のなかで一番大事な時期の一つです。だからこそきちんとした脳の知識に基づいて考えることが重要です。思いつきやカルト的なものには気をつけ、慎重に考えなくてはいけません」

 世界に先駆け国のプロジェクトとして行った「脳科学と教育」の研究統括も務めた小泉英明さん(日立製作所役員待遇フェロー)は、そう説明します。

 脳は誰もが持っているもの。心や体、人間の活動のすべてに関わることなので、人々の注目を集めやすいテーマです。けれども脳の仕組みは極めて複雑で、研究は細分化されており、全体像を理解するのはなかなか難しいとされています。人間が対象なので実証も容易ではありません。「そもそも脳については、分かっていないことのほうが多いのです」と小泉さん。それでも最近は、脳の機能を安全に計測する機器の技術開発が進み、以前は実証されなかったことが分かりつつあるそうです。

 「私は左脳人間で、あの人は右脳人間だ」「人間は脳の10%しか使っていない」。こうした説を聞いたことのある人は多いでしょう。

 怪しい脳科学の説を見極めるための『脳科学の真贋』(日刊工業新聞社)という著書もある小泉さんは、経済協力開発機構(OECD)が出した報告書『脳からみた学習――新しい学習科学の誕生』の監修を務め、「神経神話」という日本語訳を考案しました。

 神経神話とは、定説のように知れ渡っているけれど根拠が乏しい脳科学の説のこと。OECDの報告書では、上記の2つ、そして冒頭に挙げた「脳は3歳までに完成する」に関する定説も、神経神話に含んでいます