夫婦二人の新婚時代、子どもが生まれる前後の出産期、子どもが大きくなってからの子育て後期、そしてまた夫婦二人暮らしに戻っていく…。そんなライフステージによって変わりゆくのは、働き方だけではありません。その時々で必要な住まいも変化していくのです。

 「人生100年時代」と言われる長寿社会が到来しようとしている今、暮らす街も住む家も、その時々に応じて柔軟に変えていく、そんな新しい「住まい計画」が必要です。この特集では、不動産の購入、売却、賃貸、その他二地域居住に至るまで、様々な住まいの在り方を、ライフプランと併せて提案していきます。

 第2回は、とあるDUAL家族を例に、今住んでいるマンションを売った場合や貸す場合の「分岐点」について、前回に引き続きLIFULL HOME'S総研所長の島原万丈さん、さらにソニー生命のライフプランナー/ファイナンシャルプランナーの鎌田聖一郎さんと一緒に考えます。

【100年ライフの新しい「住まい」計画 特集】
第1回 住まいを考えることは、ライフを考えること
第2回 都心のマンションを売る、貸す場合の「損益分岐点」 ←今回はココ
第3回 「ずっと賃貸」だからこそかなう暮らしもある
第4回 二地域居住はコストとメリットを見極めて決断を
第5回 都会で働き、地方で暮らす 選べる未来は無限

今の家は好き。でも海のそばに住むのもアリかも?

 カーテンを開けると、窓の向こう一面に公園の緑が広がる。朝日が差し込むリビングに、眠い目をこすりながら子どもたちがやってきた。妻のユウコは既に出勤の準備を済ませ、朝食をテーブルに並べている。家族4人がそろう朝食の時間を、コウイチは何よりも大切にしている。

 コウイチは38歳。同い年のユウコと結婚し、2人の子宝に恵まれた。下の子が生まれた35歳のときに、両親の援助を受けて2LDKの新築マンションを購入。23区内、南向き。駅から徒歩13分とやや離れているが、丸の内にある会社まで乗り換えなしでアクセスできて、公園に面した緑の多い環境が気に入っている。6歳のエリも3歳のタカシも幸い近所の同じ保育園に入れたし、現状に何も不満はない。

 けれど。コウイチはふと、海の近くに引っ越したという同僚の話を思い出す。「出勤前に毎日サーフィンをする」という同僚の楽しそうな話を聞くと、自分たちにもそういう選択肢があったのではないかと思う。ガーデニングが好きなユウコはときどき「年をとったら房総に移住して、農業をやってみたい」と口にする。「定年後のプランBだね」と二人で笑い合ったが、子どもたちが小学校、中学校に入るタイミングで住まいを変えてみるという選択肢もあり得るのではないだろうか。マンションを売る、もしくは貸すことを一度考えてみようか……。

 これは、とあるDUAL家庭をシミュレーションした物語です。一度はこんなことを考えたというパパも、少なくないのではないでしょうか? 住まいを一新したいという気持ちはあっても、持ち家があり、ローンを組んでいる人にとって、お金の問題は切り離せません。「損しない売り方ってあるの?」「貸すならいくらで考えればいいの?」そんな疑問を持つ人も多いでしょう。

「残債割れ」しなければOK

 マンションの場合、買ってからどんなペースで価格は変動するのでしょうか。「一般的に、マンションの値下がりは戸建てに比べて緩やかです。だいたい25年で買ったときの半額になると想定してください」と島原さんは説明します。ただし、都心部で駅から近いなど、価格が下がりにくいマンションであれば、一概にそうとも言えないようです。

 「5500万円で買ったマンションが10年で500万円値下がりし、5000万円になったとしましょう。年間で割れば、50万円です。都心のマンションで暮らす月々の住居費が4万円強だったと考えると、かなりお得と言えるでしょう。価格が下落しにくい都心マンションの利点はここにあります」(島原さん)

 一方、ソニー生命のライフプランナー/ファイナンシャルプランナーで、これまで2000世帯以上の家計相談に乗ってきたという鎌田さんは「マンションを売る場合、売却価格よりもローン残債のほうが多くなる『残債割れ』は避けたいところ。売りたいタイミングをいくつかシミュレーションして、その金額を下回らなければOKと考えましょう」と話します。

 次のページから、具体的なシミュレーションを交えて解説します。

<次のページからの内容>
● 子育て期間は、人生の5分の1ほどでしかない
● 家に“売りどき”はない
● 貸す場合は「ローンが消せる金額」が分岐点
● あえて「小さい家」を買うのも一つの手段
● ライフスタイルに悩んだら「三世代年表」を