夫婦二人の新婚時代、子どもが生まれる前後の出産期、子どもが大きくなってからの子育て後期、そしてまた夫婦二人暮らしに戻っていく…。そんなライフステージによって変わりゆくのは、働き方だけではありません。その時々で必要な住まいも変化していくのです。

 「人生100年時代」と言われる長寿社会が到来しようとしている今、暮らす街も住む家も、その時々に応じて柔軟に変えていく、そんな新しい「住まい計画」が必要です。この特集では、不動産の購入、売却、賃貸、その他二地域居住に至るまで、様々な住まいの在り方を、ライフプランと併せて提案していきます。

 第4回は、「二地域居住」がテーマです。都内の住居に住み続けながら70キロ圏内の田舎にもう一軒住まいを持つとどうなるのか? LIFULL HOME'S総研所長の島原万丈さん、ソニー生命のライフプランナー/ファイナンシャルプランナーの鎌田聖一郎さん、そして都会と里山の往復生活を実践し、『週末は田舎暮らし』の著書もある建築ライターの馬場未織さんに、二地域居住のメリットや考えるべきコストについて伺います。

【100年ライフの新しい「住まい」計画 特集】
第1回 住まいを考えることは、ライフを考えること
第2回 都心のマンションを売る、貸す場合の損益分岐点
第3回 「ずっと賃貸」だからこそかなう暮らしもある
第4回 二地域居住はコストとメリットを見極めて決断を ←今回はココ
第5回 都会で働き、地方で暮らす 選べる未来は無限

リタイアしたら憧れの田舎暮らしはできる?

 まだ青い稲の苗が、海原のようにどこまでも続いている。風に揺れる苗を眺めながら、コウイチはおにぎりを頬張った。昨年この田んぼで収穫した米を使ったというおにぎりは、かめばかむほど甘い。慣れない田植えで疲れただろうに、2人の子どもたちは休むことなく走り回り、バッタやカエルを夢中で追いかけている。学童保育の保護者有志が主催する田植え体験に参加したのは今回が初めてだ。普段運動をしないだけに明日は筋肉痛がひどくなりそうだが、来てよかったとコウイチは思う。

 今年の春に下の子が小学校に入学したと思ったら、今度は小4になる娘の塾通いが始まった。本人の希望で近くの公立中高一貫校だけを受験させるつもりだ。都内のマンションを売って海の近くに越したいと考えたこともあったが、子どもの進路が固まってくるとなかなか動きにくくなるのが現実のようだ。ふと横を見ると、妻のユウコが日傘を差しながら熱心に本を読んでいる。何も田植えに来てまで読書しなくても……と思いながらのぞき込むと、『週末は田舎暮らし』というタイトルが目に入った。「この本を書いた人は、平日は東京で働いて、週末だけ家族で田舎暮らししているんだって」。コウイチの視線に気づいたのか、本から目を離さないままユウコが答える。

 住宅ローンを抱えた今、たとえ格安でも、もう一軒家を持つ経済的ゆとりはない。これから子どもの受験も始まる。だが、子どもたちが独立した後なら? とっさに頭の中で計算する。58歳からの田舎暮らし。いや、娘に子どもが生まれたら里帰りの機会も増えるだろうし、ローンを払い終えたマンションはそのまま残しておいてもいいかもしれない。58歳からの二地域居住。畑と古い家を借りて昼は農作業し、夜は縁側に寝転んで星を眺める。定年後もしばらくは仕事を続けたいし、週の前半は東京で、後半は田舎で過ごすのも悪くないかもしれない……。

 これは、 第2回に登場したとあるDUAL家庭の3年後をのぞいたワンシーンです。自然と触れ合う機会が少ない子どものために、もしくは週末だけでも仕事を離れてリフレッシュするために。理由はそれぞれながら、「二地域居住」に憧れを抱いている人も少なくないでしょう。

「お金をかけない」のが二地域生活を長続きさせるコツ

 都内で仕事を続けながら二地域居住を実践する場合、場所選びも重要なポイントになってきます。「『このエリアに住んだらいい』と人から提案されるより、『こんなところに住みたい』という考えが明確にある人が二地域居住を選ぶのではないか」とLIFULL HOME'S総研所長の島原万丈さんは話します。

 「海の近くがいいから湘南というように、二拠点目のイメージがある程度固まっている人のほうが多いでしょう。あえてアドバイスするならば、お金をかけないこと。古い家を直して住むなどして維持費を抑えることが、二地域居住を長続きさせるコツと言えるでしょう」(島原さん)

 島原さんいわく、都心に近過ぎず遠過ぎない70キロ圏内で探すと、価格も抑えられるうえアクセスもしやすいとのこと。具体的には神奈川県の大磯、山梨県などが土地の値段も手ごろでおすすめだそう。ただ、荷物の持ち運びや現地での生活を考えると、どうしても車が必要になってきます。車を持つとなると、具体的にどれくらいの出費が見込まれるのでしょうか。

 次のページから、二地域居住で考えるべき予算について、具体的なシミュレーションを交えて解説します。

馬場未織さんの心をつかんだ南房総の田園風景。週末暮らしを始めてから唯一増築したデッキで、子どもたちも思い思いにくつろぐ
馬場未織さんの心をつかんだ南房総の田園風景。週末暮らしを始めてから唯一増築したデッキで、子どもたちも思い思いにくつろぐ
<次のページからの内容>
● 車の経費は「駐車場+ガソリン代」だけではない
● 古家をリノベ お金をかけず工夫を楽しむ方法も
● 二地域居住の始まりは「生き物が見たい」という息子の欲求
● 決め手が見つからず、3年間に及んだ物件探し
● 南房総には憧れの田園風景とコスパの良さがあった
● 価値観が限定されないことで、心が楽になる
● 二地域居住の「先輩」からのアドバイス