子どもたちが大人になる頃、雇用はますます流動的になり、海外の優秀な人材との競争が激化することも予想されます。そんな時代に必要となるのは、自分の好きなことを見つけて前向きに働き、稼いだお金を賢く適切に使っていく力。実は、子ども時代からお金について学ぶことで、生きる上で必要となるさまざまな能力を養うことができるといいます。お金が苦手な親でも今日からできる、未来を生き抜く力を養うためのマネー教育を紹介します。

 「マネー教育」と言われても、ピンと来ない人もいるのではないでしょうか。毎日の生活だけでも大変なのに、子どもも習い事や勉強などでタスクが山積み。そもそも親自身が家計を管理できておらず、子どもに教えるなんてとても無理!という声も。お金のことは大人になってからでも遅くないのでは? そもそもマネー教育って何? 今回は、そんな素朴な疑問を識者に解説してもらいました。

「お金に強い子」がこれからの時代に有利な理由

 「子どもにお金について教えるのに、早すぎることはありませんね。保育園児の親御さんも取り組んでほしいです」。そう話すのは、マネー教育の第一人者である横浜国立大学名誉教授の西村隆男さん。金融教育事業を手掛ける森永康平さんも、「これからの時代、子どもたちが生きていく上で、お金の知識は非常に重要なスキルになる」と話します。

 「DUAL世代の多くが実感していると思いますが、年功序列制度の廃止に伴い、給料が右肩上がりだった時代は終わりました。国税庁の調査によれば、2018年(最新)の平均給与額は440.7万円。最低だった09年の405.9万円に比べれば回復しているものの、ピークだった97年の467.3万円に比べて約27万円も減少しています」(森永さん)

●平均給与が右肩上がりだった時代は終わった

国税庁「民間給与実態統計調査」より日経DUAL作成
国税庁「民間給与実態統計調査」より日経DUAL作成

 企業の退職金も、社員が自分で運用する確定拠出型年金(企業型)の導入が増え、加入者は02年末の9万人から19年末には688万人に達しました(厚生労働省「確定拠出年金の各種データ」より)。公的年金は財源が厳しく、国はNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)などを導入、個人の自助努力でお金を増やすことを促しています。「基本的なお金の知識を身に付けていなければ、自分の退職金や老後資金を増やすこともできなくなるのです」(森永さん)

 これからの時代を表すキーワードの1つが「VUCA」(ブーカ)。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字を取ったもので、従来の成功パターンが通用しない、不確実な時代を示す言葉です。そんな時代に必要となるのは、自分で考えて判断し、世間のニーズをくみ取って、新しい仕事を生み出していく力。「子どものうちからお金の使い方を自分で考えたり、決めたりする経験は、大人になってからの意思決定力や判断力、ビジネスセンスにも大きく役立つと考えられます」(森永さん)。

 実際に、子どもにお金について教えることで、どんなメリットが得られるのでしょうか。次のページからさらに詳しく見ていきます。

未来を生き抜くためのマネー教育 5つのメリット 1.収入や貯蓄額の高さとお金の知識は比例する 2.お金の使い方を決める経験で、判断力、思考力、論理性などが育つ 3.働くことに興味を持ち、ビジネス感覚も養われる 4.賢い自己投資ができ、キャリアを伸ばすことができる 5.適切な消費や投資により、自己肯定感を高められる