2020年の予測は?

 「2019年の10~12月は企業の業績見通しや採用戦略に慎重論も出ています。米中貿易摩擦はやや落ち着いてきたものの、海外で何かあると為替インパクトで輸出系産業の収益性が悪化するので、メーカーや商社を中心に慎重な採用姿勢が見え始めています。2020年の転職市場は、全体的にはそれほど楽観的ではありません」と大浦さん。

 ただ、ワーママに限れば、そこまで影響は出ないと大浦さんは予想します。「一部の職種や業種の採用は継続すると見られます。積極的に女性を採用しない会社にネガティブインパクトが出てしまうという風潮もある中、ワーママ系の転職市場はそこまで落ち込まないでしょう

数字に表れない「転職の難しさ」とは

 ただ、30~40代のワーママが、よりどりみどりできるほど求人があるのかというと、事態はそれほど甘くはないようです。「過去10年の転職市場では、求職者1人当たりの求人数は増加し続けてきたものの、『ましになった=楽になった』ではないと思います」と黒田さんは指摘します。

 「全国の有効求人倍率で言うとバブル期の値をも超えていますし、40代の人の転職決定者数や求人が増えたのは事実ですが、35歳以上と40代のミドルの転職が、35歳未満の若手人材市場と比べて圧倒的に厳しい現実は依然として変わらないと感じています。

 例えば、若手求職者10人に対しての求人が50件から100件に増えるとします。求職者1人当たりの求人件数は2倍増加したことになります。同じ時期に40代の求職者10人に対して1件しかなかった求人件数が3件に増えた場合、求人件数は3倍に増えたことは事実ですが、求職者1人当たりの求人件数は0.3件にしかなりません。ミドル世代の求人が増えていることは事実ですが、年齢が上がるほど求職者1人当たりの求人の椅子が少なくなる構造は、根本的にはまだまだ変わっていません

 転職には、性別や年齢だけでなく、職種、業種などさまざまな個別要因が大きく影響すると黒田さんは言います。「しかも統計的な数字には一人ひとりの希望条件は織り込まれません。転職市場全体の求人数が増えたと言っても、個別の希望に合う求人が増えているとは断定できません。例えば女性にも多い薬剤師は全然人手が足りなくて引っ張りだこですが、調剤薬局や製薬会社を希望する人が圧倒的に多く、求人数が多いドラッグストアを希望する人は少ないというようなミスマッチがいたるところに存在しています」

「オールドエコノミー」から「ニューエコノミー」へ需要が移動

 「大きな流れとしては、衰退傾向にある『オールドエコノミー』から成長途上の『ニューエコノミー』側に人材の需要が大きく移動している、という構図があります。オールドエコノミーは、まだ年功序列が残っている会社も多く、従業員の生み出す成果に対して支払われている報酬が多すぎるという構造問題を抱えた企業も増えています。それもあって苦しいオールドエコノミーの企業の多くはリストラを進めています。

 一方、ニューエコノミー側はベンチャーも含めてまだそこまで体力がありません。海外法務のプロなどよほどの希少価値がない限り、前の年収を維持したままニューエコノミーで迎え入れられることは少ないでしょう」(黒田さん)

 そんなシビアな現状はありますが、黒田さんはこうアドバイスします。「マクロの環境がどうというのは、転職するに当たって気にする必要はありません。転職は、自分がどうつかんでいくのかが大事なので、世の中全体の市況にかく乱されないほうが、満足のいく転職活動ができると思います」

 まず大切なのは、自分の持っている能力にどのような価値があるのかを正しく見極めること。「健康食品のクレーム対応窓口で働いていた女性が、大型ディスカウントストアを展開する企業の店舗開発責任者に転職したという例があります。大型店の新規出店の際には、近隣住民と交渉するなど粘り強い交渉力が必要です。コールセンターのオペレーターと店舗開発職は全然違いますが、彼女はさんざんクレームに対応してきてその能力が高かった。転職先はそうやって広げていくこともできるのです」

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 満足のいく転職を果たすには、自分の能力を多角的に分析したり、強みを掘り起こしたりする必要があるようです。ワーママが自分の商品力を高める手法などについて次回以降探っていきます。

取材・文/小林浩子(日経DUAL編集部) イメージ写真/PIXTA



大浦 征也(おおうら せいや)
doda編集長 
氏大浦 征也(おおうら せいや) 2002年、インテリジェンス(現:パーソルキャリア)入社。人材紹介事業に従事。法人営業として企業の採用支援、人事コンサルティングなどを経験した後、キャリアアドバイザーに。これまでに支援した転職希望者は1万人を超える。キャリアアドバイザーの総責任者、法人営業部隊も含めた地域拠点の総責任者などを経て、2017年より現職。営業本部長、事業部長を歴任し、2019年10月、執行役員に就任。社外にてSHC(公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル)理事などにも名を連ねる


黒田真行(くろだ まさゆき)
ルーセントドアーズ代表取締役
黒田真行(くろだ まさゆき) 1988年にリクルートに入社し、現在まで30年以上、転職・中途採用サービスの企画・編集・マーケティングに関わる。2006~13年「リクナビNEXT」編集長。リクルートドクターズキャリア取締役などを経て、2014年より、日本初の35歳以上専門の転職支援サービス「Career Release 40」を運営。2019年、転職を前提としないミドル世代向けキャリア相談プラットフォーム「Can Will」開設。著書に『転職に向いている人 転職してはいけない人』(日本経済新聞出版社)など