認可保育園などに通う3~5歳児の保育料を無償化する「幼保無償化」が大きな話題となった2019年。待機児童問題への対応も含め、自治体の取り組みはどこまで進んだのでしょうか。2015年から毎年行っている、日経DUALと日本経済新聞社による共同調査「自治体の子育て支援制度に関する調査」を今年も実施。その結果を基に「子育てしながら働きやすい街」をDUAL・新聞独自の指標でランキングしました。

本特集では上位自治体への取材から「子育て政策で結果を出す」ための秘策を紹介。過去5年間の調査で得たデータを基に、今後への課題もあぶり出します。

 日経DUALと日本経済新聞社は、2015年から自治体の子育て施策を共同調査してきました。この間、自治体の施策はどう変化したのでしょうか。調査対象が現在と同じ全国162自治体になった16年の調査結果と比較し、保育施策の変化と、今後の課題を考察しました(回答数は16年=147自治体、19年=138自治体)。

子育て施策はどう変化した? 画像はイメージです
子育て施策はどう変化した? 画像はイメージです

保育園への申請数、自治体の定員数共に増加

 まず、0歳児の認可保育園等(注)への入りやすさを比較しました。16年時点で、0歳児の認可保育園への申請児童数は平均556.4人でしたが、19年には644.7人と、約90人増加しています。それに併せて、0歳児クラスの定員数も、平均646.1人から809.2人へと、約160人分増加。また、全年齢クラスの利用定員を見ても、16年の7763.2人に対し、19年には9449.7人と、約1680人増加しています。

 この5年間、保育ニーズの高まりに後押しされる形で、待機児童対策などに力を入れる自治体が増えましたが、日経DUALの調査結果はまさにそれを裏付けるものとなりました(下図参照)。

(注)認可保育園、認定こども園、小規模保育所、家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育(地域枠)を含む
(注)認可保育園、認定こども園、小規模保育所、家庭的保育、居宅訪問型保育、事業所内保育(地域枠)を含む

 保育施策に詳しい日本総合研究所・主任研究員の池本美香さんは「女性の就業率が特に伸びた時期と重なる」と分析します。総務省の労働力調査によれば、15~64歳の女性の就業率は12年以降特に顕著に上がり、最新の18年調査結果では過去最高の69.6%に達しました。「子どもがいても働く、という認識が広まり、専業主婦が多かった地域でも母親の就業率がアップ。待機児童問題を受け、0歳児のうちに保育園に預けようと考える人が増えた時期でもあります。そうした流れに合わせて自治体が対策を打ってきたことの表れだと思います」(池本さん)

 

当初は17年度の待機児童ゼロが目標だった

 とはいえ、急拡大する保育ニーズを満たし切れたとは言えず、自治体の施策が後手に回っていた感は否めません。本調査が始まった15年当時、政府は「17年度末までの待機児童ゼロ」を目標に掲げていました。

 しかし就業意欲がある女性が増えたことで待機児童はますます増加。日経DUALが16年調査で「17年度末までの待機児童ゼロは達成できそうか」と聞いたところ、「達成できそう」と答えた自治体は38.1%止まりでした。当時は保育需要のピークを「17年度」と予想した自治体が最も多かったのですが(20.4%)、実際はその後も保育ニーズは高まり続けました。

 その後政府は、待機児童ゼロ達成の目標時期を「20年度末」に修正。今回の19年の調査では、その目標が達成可能かどうか聞きましたが、20年度末までの待機児童ゼロ達成が「十分達成可能」「ほぼ達成可能」と答えた自治体は、合計で55.3%。16年調査時よりは達成見込みが増えたものの、まだ半数の自治体で、待機児童ゼロ達成が政府の目標よりも遅れる見込みである状況が明らかになりました。

 この結果を受けて池本さんは、「自治体にとっては、保育需要の予測の難しさも課題の1つ」と分析します。「都市部の場合、大型マンションができて子どもの数が一気に増えたり、専業主婦が多かった地域で女性の就業率が上がったりすれば、保育需要は高まります。一方で、将来的に子どもの数がますます減少していくと予想される中、保育施設を増やしすぎることへの懸念もある。そのバランスをどう取っていくかが難しい」

 一方で、待機児童ゼロを達成できる見込みの自治体にとっては、「量から質を求める段階に来ている」と池本さん。「保育施設が増え、保育時間が延びている一方、保育士は不足。こうした中で心配なのは、子どもの安全対策です。保育施設などにおける負傷事故の件数は年々増えています(内閣府「教育・保育施設等における重大事故防止策を考える有識者会議年次報告(令和元年)」より)。保育施設内での虐待も報じられており、対策が急務となっています」