コロナ下で働き方や暮らし方が大きく変わりました。それだけでなく、DX、多様化、グローバル化もますます進んでいくでしょう。子どもたちが社会に出る十数年後に、親世代の常識はどこまで通用するでしょうか。親はこうした変化にどう対応すればいいのでしょうか。この特集では「働き方」「キャリア教育」「ジェンダーバイアス」の3つの変化に注目し、「子育ての新常識」を探りました。

キャリア教育の有無は、子どもの仕事観を変える

 ロールモデルなきこれからの社会で働く子どもたちには、どういう「仕事観」が必要なのでしょうか? 世界各国のミレニアル世代・Z世代(※)の仕事観などを調査した「デロイト ミレニアル年次調査2020」によると、世界と日本では、「仕事観」にギャップがあることが分かっています。同調査の日本版を担当した、デロイトトーマツの澤田修一さんはこう説明します。

※ミレニアル世代……本調査では、1983年から1994年生まれが対象
※Z世代……本調査では、1995から2003年生まれが対象

 「『働く上でのモチベーションは何か?』という質問に対し、世界43カ国では『仕事の内容』を重視する一方、日本の若者は『自分らしく働ける職場風土・インクルーシブネス』『ワークライフバランス』を重視していました。仕事へのモチベーションが明らかに違ったのです。その理由として考えられるのは、日本の公教育におけるキャリア教育が十分ではないことでしょう。社会における自分の価値は何か、どんな人生を歩んでいきたいかといった本質的な疑問に、若い時にじっくり向き合う機会がほとんどなく、理系と文系のどちらに進むのかも、好き嫌いだけで判断しているところがあるようです」

目的を持ち、海外大学を目指すようになった生徒たち

 キャリア教育は、「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育」などと定義されています。武蔵野大学附属中学高等学校、同大附属千代田高等学院の2校で校長を務める日野田直彦さんは、キャリア教育が必要とされる背景について、「今の日本の教育には『何のために勉強するのか?』という目的意識や『こうした課題があるから学びたい』という課題意識が抜け落ちているように感じます」と語ります。

武蔵野大学附属中学高等学校、同大附属千代田高等学院の2校で校長を務める日野田直彦さん
武蔵野大学附属中学高等学校、同大附属千代田高等学院の2校で校長を務める日野田直彦さん

 日野田さんは、幼少期をタイで過ごしました。日本に帰国後は、2014年に民間校長として大阪府立箕面高等学校に赴任。以来、「生徒のモチベーションを上げること」を何より大切に考えてきました。

 「私は大学卒業後、進学塾に就職しました。そこで見えてきたのは、ちっとも勉強をしたくない子どもに無理やり勉強をさせる日本の教育システムのあり方です。これではまるで、食欲のない病人に無理やりステーキを食べさせるようなもの。その子の目的意識などを無視した教育では、個性の光る生徒は育たないでしょう」

 日野田さんは、受験対策も補修や補講なども一切やめ、それまでもあった短期留学制度を改革。「英語を話すこと」を目的とする留学から、「キャリア教育」を目的とする留学へと、内容を拡充させました。すると2017年には、「THE世界大学ランキング2021」(※)で31位のメルボルン大学、51位のシドニー大学の他、リベラル・アーツ・カレッジとして名高いリトル・スリーの一校であるウェズリアン大学、世界初フルオンラインの大学であるミネルバ大学などを含む、30もの海外大学に36人の生徒が進学しました。ちなみに、日本の最上位大学は36位の東京大学です。

※英国の教育専門誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション」が毎年行っている調査

 「私は、生徒に『海外大学に留学したら?』と言ったことはありません。その子の目的意識を刺激し、課題意識を持たせるために、短期留学先で、社会で活躍するたくさんの起業家と触れ合う機会をつくっただけ。すると、生徒たちの目線は海外へ向き、成績は自然に上がっていきました

 なぜ、生徒たちにマインドチェンジが起こったのでしょう。そこには、海外から見た日本を知る日野田さんならではの、「常識を突き抜けた3つの発想」がありました。3つの発想と、日野田さんが実施してきたキャリア教育について、次のページから詳しく紹介します。