「遊びを壊す」パパにならないために

 「パパと子どもが遊ぶときの理想例をイメージするなら、相手をやっつけに行く大相撲ではなくて、盛り上げるための技の応酬などのプロセスがある、プロレスがいいと思います。常にどちらかが勝つのではなくて、お互いに盛り上げ合う感じが理想的です」

一般社団法人TOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志さん
一般社団法人TOKYO PLAY代表理事の嶋村仁志さん

 「残念ながら大人が遊びを壊してしまう瞬間があります。例えば、純粋にキャッチボールを楽しんでいるときに『ひじの角度が悪い』などと指導し始める。また、子どもだけでベンチを作っていて、大人から見ると、これは間違いなく倒れるな、というときに『ここを補強したほうがいい』とアドバイスしてしまう。遊びの醍醐味は、座ってみて倒れて『あ、ヤベー』と思う瞬間に本当は始まるんです。未知との遭遇やトラブルにドキドキワクワクする。遊びはプロセスが大事です。だから、パパは先が見えていたとしても、常に『どうなるかなー』『次はどうするー』という実験的な立場でいるほうが楽しいと思います

 大人の役割が昔と変わってきた、と嶋村さんは指摘します。「昔は、試行錯誤して失敗する子どもたちが多かったから、うまくいくやり方を教えるのが大人の役割でした。でも今は体験という名でパッケージ化された商品が大量に出回っているから、失敗も含めてリカバーする経験ができなくなっています。今子どもに必要なのは、失敗も含めてまるっと面白がってくれる、試行錯誤のチャンスを守ってくれる大人。そういう大人がたくさんいることが子どもの幸せにつながると思います」

上級編 1対1は限界がある だからこそ……

 公園に来ても、パパはスマホに夢中という場面も少なくありません。「パパがスマホをする『ひとり時間』はそれはそれでとても大事なので別に設けましょう。公園などの遊び場では、ほかの子に注目してみると、新しい出会いや新しい世界が広がると思います」

 「ちょっと上級編かもしれませんが、公園で遊ぶなら、ほかの子の遊びを実況中継するのはお勧め。『わー。あのおねーちゃんすごいねー』などと言っていると、うれしくなったその子が、自分の子どもに話しかけてくれたりして、それがきっかけで親同士が話せることもあります。1対1の遊びは意外とつらいもの。遊びを専門としている私でさえそう思うときがありますし、結構すぐに限界がやってきます。大人同士がつながると、大人自身が楽できます」

 パパが他の家の子どもと遊んでみることも嶋村さんは勧めます。「よその子と遊んでみると、無心に遊べてめちゃくちゃ楽しめます。それで隠れた自分の遊びの才能が目覚めることがあります」

 「今、遊んで遊んでと寄ってくる子どもたちも、あっという間に、親に対して『うざっ』とか『キモッ』と言う年齢になってしまいます。時間のあまりないときに『遊ぼう』と言われると私も迷います。でも、『5年後、いや2年後には、もう同じようには言われないかもしれない』と思い出して『よし、やるか!』となることがあります。やらなければ、それはそれでその瞬間は過ぎるだけですが、やってみようと決めることで確実にその子とのかけがえのない思い出になります

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特集2回目以降、具体的な遊びをたっぷり紹介します。ご期待ください!

取材・文/小林浩子(日経DUAL編集部) 写真提供/嶋村仁志



嶋村仁志(しまむら・ひとし)
一般社団法人TOKYO PLAY代表理事
嶋村仁志(しまむら・ひとし) 東京生まれ。羽根木プレーパーク(東京世田谷区)でプレイワーカーとして勤務した後、川崎市子ども夢パークの立ち上げや、地域で育てる子どもの遊び場づくりに関わる。現在、 International Play Association (IPA)日本支部運営委員、NPO 法人日本冒険遊び場づくり協会理事、一般社団法人日本プレイワーク協会理事。9歳と4歳の父として子育て中。著書に『子どもの放課後にかかわる人の Q&A50』(共著、学文社 )