家事・育児の分担、子どもへの接し方、教育方針や仕事観……パートナーの態度や言葉に対し、違和感を持ったことはないでしょうか。話し合いで解消すればいいけれど、時として互いの価値観がぶつかり合い、深刻な夫婦喧嘩に発展してしまうこともあります。だからといって違和感をそのままにしていると、気付かぬうちに溝が深まり、修復不可能な状態になってしまうかもしれません。そもそも人の価値観はどう形成されるのか、価値観の違うパートナーとわかり合うことはできないのか。違和感が生じる背景や、解消法を探っていきます。

 パートナーに対して違和感を持ったとき、多くの場合は話し合いで解消しようとするでしょう。うまく歩み寄れればいいですが、いくら話しても変化が見られず徒労ばかりに終わってしまう場合は、次第に話し合う気力すら奪われてしまうかもしれません。特集1本目では、結婚して20年、夫への違和感を解消できずにいる、働くママの斉藤和美さん(仮名)に話を聞きました。本特集では斉藤さんのケースを入り口として、パートナーへの違和感はどうして生じるのか、解消するにはどうすればいいのか、考えていこうと思います。

斉藤和美さん(仮名)/45歳/フリーランス(人材領域)
夫/45歳/会社員
子ども/長女(大学生)、次女(高校生)

夫への違和感が解消することはなかった

 現在40代の斉藤さん夫婦は、今、離婚に向けて話し合いをしています。浮気や借金、あるいはDVのような、はっきりとした原因があったわけではありません。けれども約20年間の結婚生活の中で、夫の言葉や行動についての違和感は大きくなる一方で、解消することはなかったのだといいます。

 「子育てのパートナーになってくれるよう、何度も働きかけましたし、話し合いもしました。それでも、夫が変わることはありませんでした」

 そう話す斉藤さんに、結婚してからこれまでのことを聞きました。

 斉藤さん夫婦が結婚したのは約20年前。当時斉藤さんは、関西で会社員として働いていました。

 「当時お付き合いをしていた夫が東京に転勤することになったので、仕事を辞めて結婚することにしたんです。仕事がとても楽しい時期だったので、辞めるのはできれば避けたかった。今なら辞めずにすむ選択肢があるのかもしれないけれど、20年前はリモートワークなんてありませんし、それどころか『結婚したら妻が仕事を辞める』風潮すら残っていました」

 ずっと関西で暮らしていた斉藤さんにとって、東京は縁もゆかりもない場所です。まもなく斉藤さんは妊娠しますが、知り合いもいない場所での初めての妊娠生活は不安だらけだったそう。頼れるのは夫だけなのに、夫の帰宅は常に午前0時を超えていました。

 「私は結婚することで、親や友達とも離れ、名字も変わり、仕事も辞め……いわばすべてを捨ててきたんです。でも夫は結婚しても何も変わらない。なんて不平等なんだろう思っていました。当時は社会との接点が夫とおなかの子どもくらいしかなく、しかも夫は仕事にかかりきり。私も何とか社会とのつながりをつくりたくて、在宅で仕事を始めることにしたんです。『夫に養われている』という状況に自分で違和感を抱いていたのもあります」

 斉藤さんは英文翻訳など、在宅でできる仕事を探して請け負い始めます。出産後も、家事や子育てをしながら在宅の仕事を続ける一方、夫は、家事や育児を手伝うでもなく、相変わらず仕事ばかりだったそうです。

 「私が仕事することに対して、夫は、『家事や育児に影響が出ないならやれば』という感じでした。『俺はフルタイムで働いているから、保育園の送迎とかは無理だから』と、育児・家事を分担する気はゼロでしたね。今なら社会問題になりそうなセリフだけれど、当時はまだ、家事・育児は女性が担うのが当たり前という風潮が残っていた。だから私も当時は、しょうがない、自分でがんばろうと思っていました。非正規の仕事なので保育園にも入れられず、子どもを育てながら在宅での仕事を続けていました」

 一方で、夫の子どもへの関わり方には違和感を抱かずにいられなかったそう。