子どもがしたいようにさせてあげたい。でも、甘やかすことと子を尊重することはどう違う……? 子どもが主体的に考え、行動する力を育むためには、子を尊重する親の関わり方が大事です。世界で注目を集める教育法には、そうしたヒントがたくさんあります。子育て中に迷いがちな事例を見ながら、親子ともにハッピーになれるエッセンスを紹介します。

 「子を尊重する育児」を実践するオルタナティブ教育。実際にはどのような教育が行われ、教師や保護者は、どんなふうに子どもたちを見守っているのでしょうか。

 今回は、1992年、和歌山県に誕生した「学校法人きのくに子どもの村学園」の卒業生と、在校生の保護者に話を聞きました。全国に小中学校が5校、高等専修学校が1校ある同学園では、既存のカリキュラムに子どもが合わせるのではなく、子どもが自分らしい価値観や世界観を持てるよう、大人が、一人ひとりの「ものの見方」や「生き方」を見つけるサポートをしています。小中学校には、宿題やテストがなく、カリキュラムの約6割は、小1から小6までの異年齢グループによるプロジェクト形式の学び。パン作りや自分たちで使う机作りなどを通して、机上論にとどまらない手を使った学びが多く取り入れられています。

 卒業生でギタリストの松本富有樹さん(29歳)と、現在、きのくに子どもの村小中学校に、小2と小4の娘が在学する木村智浩さん(39歳)に、それぞれの立場から、子どもを尊重する教育によってどんな学びが得られたのか、それが、今にどう結びついているのかを対談形式で語ってもらいました。


納得するまでやり切ることが当たり前だと思っていた

木村智浩さん(以下、木村) 松本さんは、きのくに子どもの村小中学校で小4から中3まで学び、その後、どのような進路を経て現在に至るのですか?

松本富有樹さん(以下、松本) 中学生のとき上級生に憧れてギターを始めて以来、ずっとプロのギタリストを目指してきました。大学受験が前提の高校ではギターを学ぶ時間が取れないと思い、中学卒業と同時に実家のある大分県に戻り、福岡県の通信制高校に通いながらギターアカデミーで基礎的な技術を学びました。

木村 通信制高校へ行くことは、自分で決めたのですか?

松本 そうですね。きのくに子どもの村小中学校では、失敗しても受け皿を用意してくれていたので、納得するまでやり切るのが当たり前だと思っていました。それもあって、進路に悩むことはほとんどありませんでした。

木村 その後は、どのような進路を?

松本 スイスにある音楽大学のバーゼル音楽院に入学し、さまざまなギタリストに師事。2019年に帰国してからは、演奏会などを中心に福岡で活動しています。

木村 バーゼル音楽院は、卒業が難しいことで知られていますが、満場一致の最高点、首席で卒業されたと聞きました。授業や生活で「言葉の壁」を感じることはありませんでしたか?

松本 最初は大変でした。日本にいるときから英語は学んでいたものの、いくらがんばっても話せるようにならなくて……。英検の結果も散々でしたね。ただ、留学後は必要に迫られ、1年をかけて日常生活の中で英語を習得し、それと同時に、語学学校へ通ってドイツ語をマスターしました

 改めて、学びのタイミングは自分次第だと思いましたね。特に僕の場合、「将来必要だから」という動機で勉強することは難しかったのだと思います。

現在、きのくに子どもの村小中学校(転校前は南アルプス子どもの村小中学校)に娘2人が在校している木村智浩さん(左)と、卒業生で、ギタリストの松本富有樹さん(右、©️Leonardo Bravo)
現在、きのくに子どもの村小中学校(転校前は南アルプス子どもの村小中学校)に娘2人が在校している木村智浩さん(左)と、卒業生で、ギタリストの松本富有樹さん(右、©️Leonardo Bravo)
現在、きのくに子どもの村小中学校(転校前は南アルプス子どもの村小中学校)に娘2人が在校している木村智浩さん(左)と、卒業生で、ギタリストの松本富有樹さん(右、©️Leonardo Bravo)

 語学に加えて、留学先では、文化の違いに悩まされることもほとんどなかったという松本さん。その理由は、「子どもを尊重する教育での学び」が大きかったといいます。次のページからは、松本さんが経験した、きのくに子どもの村小中学校での学びについて、「社会に出て役立ったと感じていること」「公教育などで学んできた人との違いを実感したエピソード」などについて詳しく教えてもらいました。