パートナーのDV/モラハラ、依存症、離婚、わが子のいじめ加害……。こうした悩みは、人に相談しにくく、自分たちだけで抱え込んでしまいがちです。しかし、問題を放置してしまうと、自分がつらいだけではなく、子どもの健全な発育が妨げられてしまうことも。悩みを解決するためには、視野を大きく広げ、問題が起こる根本原因や、影響が及ぼす範囲などにも目を向ける必要があります。共働き家庭のケースを想定し、専門家の取材を通じて、出口戦略を考えていきます。

親が子どもに行うことの99%は「教育虐待」ではない

 何度説明しても理解度が上がらないわが子にイライラ。叱ったり、怒鳴ったりすることはよくないと分かってはいても、、日々の仕事の疲れも相まって、ついつい「なんでそんなことも分からないの。何度も説明してるでしょ!」「こんなことも分からないんだったら第1志望なんて受からないよ」ときつい言葉で叱責してしまう。ときには手が出てしまうことも。そして、言いすぎたなどと反省しても、次の日にはまた声を荒らげてしまう、の繰り返し。

 心の奥底ではわが子のためを思っての言動である半面、「もしかしたら、最近よく見聞きする『教育虐待』に自分は当てはまっているのかもしれない。でも、どうすればいいのか分からない」と悩んでいる親は少なくないかもしれません。

 「親が子どもに対して行っていることの多くは『教育虐待』ではないと思います」と話すのは、慶應義塾大学医学部小児科教授の高橋孝雄さんです。

 「最近、さまざまな種類の『虐待』という言葉が一般的に使われるようになりましたが、多くの場合、定義するのが難しいと感じています。『教育虐待』もその1つ。背景が多様でどういう意味で使われているのか、僕も話していてだんだんよく分からなくなる言葉です。

 これまで僕たちの病院に入院してきた、摂食障害やうつ病などの精神疾患を患った子どもたちを多く診てきましたが、家族機能の低下による問題が明らかになることがほとんどです。ただし、それはあくまでも深刻なケースで、一般的には親が子どもにしていることの99%は虐待ではないと私は考えています。なので、まずは安心してください」

 とはいえ高橋さんは、「教育虐待」とまではいかないとしても、度が過ぎた家庭での教育やしつけを数多く見てきたと言います。一般的には、そうした行為は、親が子どもに関心を寄せすぎていることから生じるものだと解釈されがちですが、高橋さんは「実は、それらのケースの共通点は、親が子どもに無関心であること」だと説明します。そして、そうした極端な家庭環境の結果は、わが子が大人になったときに思わぬ症状として表れる可能性があるのだそう。