生活の中で触れる文書は多様化し、デジタル空間にも広がり、「読解力」の定義や教育方法は、どんどん変わっています。子どもたちは、どのような「読解力」を伸ばせば、これからの世の中で豊かに学び、働き、生きることができるのでしょうか。AI時代に必要な力や、幼児から家庭で取り組める習慣、読解力重視の傾向が強まる中学入試に備えるヒントなど、読解力について多角的に迫ります。

 本特集では、読解力を武器にグローバルに活躍したり、子どもの読解力向上に取り組んだりしている、いわば読解力の達人に話を聞いてきました。最終回の今回は、それぞれの達人に自身の読解力が目覚めるきっかけになった読書体験を聞いていきます。また、5~6月に実施した『日経DUAL』の読者アンケートから「子どもの読解力向上に役立った本」をピックアップして紹介します。

 

青木繁和さん 推理小説に夢中になり、執筆にも挑戦

 トップバッターは、特集第4回で中学受験に求められる読解力を育てるノウハウを聞いた学習塾enaの小学部部長、青木繁和さん。生徒たちに中学受験でよく出る作家の小説を読むことを勧めている青木さんですが、自身は「小学生の頃は読書家というほどの本好きではなかった」と言います。「読書家の友達は1週間に2~3冊は読んでいましたが、私は寝る前に少し読むくらいでした。中学受験に頻出のあさのあつこさんや重松清さんの作品も、実はこの仕事に就いてから読みました」

 とは言うものの、本好きの父親の影響で小学校3~4年生頃から本を読む習慣はあったそうです。「父がハードカバーの本を読む姿を見て、『僕には読めない漢字も出てきて難しそうだけど、きっと面白いんだろうな』と思ったのが読もうと思ったきっかけです。父がよく行く古本屋さんに付いていって、お小遣いをやりくりして買っていました。印象に残っているのは、赤川次郎さんの『三毛猫ホームズ』シリーズです。今思い返すと、不倫をしている登場人物もいて、子どもが読むには大人っぽい内容でしたね。でも、夢中で読んでいたせいか、親が止めることはありませんでした」

 推理小説に熱中し、小学校5年生の頃には「僕は推理小説家になる」と宣言していた青木さん。「父が理系の仕事をしていたので、家には当時はまだ珍しかったパソコンがありました。それを使って、自分の町を舞台にした殺人事件の小説を書きかけたこともあります。何冊も読むうちに推理小説の構造が分かってきて、自分でも書こうと思ったのでしょうね」