一般的に中学受験の準備は小学3年生の2月から始まります。ただ、親子でよく話し合った上で通塾をスタートしても、高学年になって思うように成績が上がらなかったり、地元の公立中に行きたい理由ができたりして、「やっぱり受験をやめる」となる可能性はあります。逆に、中学受験をするつもりがなかったのに、途中から「やっぱり受験しようかな」と迷い始めるケースもあるでしょう。そんな重大な「方向転換」に、親は、そして子どもはどのように対処すればいいのでしょうか。中学受験の専門家や、方向転換を経験した当事者たちに取材しました。

 教育家の小川大介さんは、これまで中学受験のプロとして、6000組以上の親子と面談をしてきました。小川さんは、「私の経験上、『中学受験をやめたい』と言い出すのは、過半数以上が親からです。肌感覚ですが、親が7割くらいだと感じます」と話します。

 親が「中学受験をやめたい」と言い出すのは、メンタル面の理由からであることが多いそうです。親が、子どもの成績に左右されてしまって自身の精神状態をコントロールできなくなってしまう、子どもをどう支援したらよいのか分からず無力感にさいなまれる、中学受験を通して子どもに何を達成してもらいたかったのかビジョンが分からなくなってしまうといった心理状態に陥る傾向があるといいます。

 小川さんは、中学受験をやめるかどうか判断に迷う状況には、「子どもでなく親に乗り越えるべき課題があります」と指摘します。「そもそも、中学受験は子どもが成長する機会なのです。その意味で、中学受験に向いていない子どもはいません。中学受験に向き・不向きがあるとするなら、それは大人のほうです。例えば、ネットなどで集めた情報や、塾のテストやクラス分けの結果ばかりに振り回されたり、子どもの日常に関わろうとしないでテストの点数だけに口を出したりする親は、中学受験に向いていません」と話します。

 「そうした親は、『中学受験に向いている子どもは、設定した目標に向けて、予定通りに成績を上げられるなど、大人の期待に応えて、頑張れる子ども』と考えがちです。しかし、そうした思い込みが、親子共に中学受験をつらいものにしてしまうのです。子どもから『もう受験はいやだ』と言い出す場合も、親が学習方法や子どもへの態度を間違えているなど、関わり方に問題があることが少なくありません」と小川さんは話します。

 では、子どもの意欲をそいで足を引っ張らないために、親はどうすればいいのでしょうか

模試の成績速報を見て「受験撤退」の文字が頭をよぎることも(写真はイメージ)
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