結婚した当初は、夫婦が同じように働き、同じように稼ぎ、夫婦は平等だと思っていた。だけど、子どもが生まれて共働き子育て生活が始まると、一方だけが育児や家事の大半を担うワンオペに。それどころか、家庭内の発言権、決定権にまでいつの間にか差がつき、気づくと夫婦間に大きな不平等や格差が生まれていた、というケースは少なくありません。いったい、こうした共働き夫婦の不平等はどこから生まれるのでしょうか。背景や、解消のヒントを探りました。

 特集2本目で紹介したとおり、日本では共働きであっても、夫のほうが妻よりも収入が多いパターンが圧倒的に多いというデータがあります。新婚当初は収入が同じだったのに、出産後、女性が育休を取ったり時短を取ったりすることで収入格差が生まれ、その結果、収入の低いほう、つまり妻が育児も家事も主に担うワンオペにつながってしまったという家庭もあるかもしれません。

 しかし、女性のほうが家計を主に担うパターンもあります。今回は、自身が大黒柱になった時期も、ワンオペだった時期も経験したこともあり、家計を主に担う「大黒柱妻」たちの取材を通じて、最新刊『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』(エムディエヌコーポレーション)を出版したマンガ家・田房永子さんに話を聞きました。「大黒柱として家計を担う側の気持ち」を聞くとともに、収入に差がある夫婦でもどちらか一方だけに家事や育児の負担が偏らず、うまくやっていく秘訣などについて、語ってもらいました。

「ワンオペ側」の無言の抵抗は、あまり意味がない?

日経xwoman DUAL(以下、略)―― マンガでは、二児の母である主人公のふさ子が7年間ワンオペ生活を送っていましたが、「思い切り仕事がしたい!」という情熱から、夫と役割を交代。夫が主に家事と育児を担い、妻が生活費の7割を負担するようになりました。これはご自身の「大黒柱妻」の経験も踏まえたものだとか。

田房永子さん(以下、田房) 私自身、もともとバリバリ仕事がしたいタイプだったのですが、2012年に子どもが生まれてからずっと、その欲求をセーブしていました。ところが、2019年に夫と分担を交代する機会があって、それまでの反動でスパークして「仕事にかまける」時期があったんです。

主人公のふさ子は、7年分の蓄積した「仕事への思い」があふれた(『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』/エムディエヌコーポレーション)P12より
主人公のふさ子は、7年分の蓄積した「仕事への思い」があふれた(『大黒柱妻の日常 共働きワンオペ妻が、夫と役割交替してみたら?』/エムディエヌコーポレーション)P12より

 実際にわが家で起こったエピソードを使っている部分もあります。連日、夜遅くまで仕事をする日々を繰り返していた時のことです。その日は、帰宅すると家中が真っ暗で静まり返っていました。「夫が子どもを連れて家出しちゃったのかも」と一瞬動揺しましたが、早々に寝ていただけだったんです。でも、夫が怒っていることは感じました。

 それは私も、自分が家事育児ワンオペの時代に、夫に対して怒りを表明する時に同じことをしたので分かりました。ワンオペでとにかくヘトヘトな時って、自分が一体何に対して怒ってるのか分からなくなるんです。私の夫はちゃんと毎日決まった時間に帰ってきて家事育児もやっていました。それでも、子どもが生まれても仕事をセーブすることなく変わらず働ける夫が、私はすごくうらやましかった。疲れ果てて、「お帰りなさい」と夫をねぎらうのも、自分の窮状を冷静に訴えるのも無理、という日に、早く寝て部屋を真っ暗にしたことがありました。怒りと脱力が入り交じった、全力での無言の抗議でした。

 だけど自分が反対の立場になってみると、夫の無言の抗議があまり気にならなかったんです。怒らせちゃった……なんとかしなきゃ、と思いつつ、誰もいないリビングに入った途端、チーズなんかを食べ出してくつろいでしまったんです。そんな自分に衝撃を受けました。「『夫』ってこんな感じだったんだ! あの時、何も伝わっていなかったんだ!」という衝撃。確かに、私が「真っ暗抗議」をしたあの時には、隣の部屋から夫が缶ビールを開ける「プシュ」って音が聞こえたんですよね。

夫と子どもが寝静まった後のリビングは、自分だけのラグジュアリーな空間(同著P28)
夫と子どもが寝静まった後のリビングは、自分だけのラグジュアリーな空間(同著P28)

 ワンオペのつらさを心底体験しているのに、一瞬でくつろぎを堪能する「夫」側になってしまった自分にも驚きました。そしてそれが男性から見る「結婚」の光景なんだろうな、ということに気づいたのです。男の人は生まれた時から「一生働いて家族を養うのが男の仕事だ」とか「家事育児がしっかりできる良い奥さんをもらえよ」とか教えられている人が多いんじゃないかと思います。そういう人たちに、ワンオペでボロボロになった女性たちが抗議してもなかなか分かってもらえない、自分事として考えてくれない、自発的にやらない、っていうのはある意味当然のことなんだ、という絶望みたいなものも感じました。

―― マンガを描くにあたり、何人もの「大黒柱妻」を取材したそうですが、どんな印象を受けましたか?