柔軟な働き方ができない企業は人材確保で不利に

 そして、こうした在宅勤務をはじめとする自由度の高い働き方を制度として導入することは、企業が優秀な人材を確保するうえでも欠かせない施策だと山口さんは話します。

 「若い世代は男女ともに子育てと仕事を両立したいという意向が強く、就職活動の時点で在宅勤務の実施状況をチェックするという人も多くいます。これはつまり、柔軟な働き方ができない企業は、優秀な人材を獲得するチャンスを逃してしまうおそれがあるということ。労働人口が減っていく時代に、いかにして優秀な人材に定着してもらうか、というのはどの企業にとっても重要な課題です。自由度・納得度の高い働き方を用意しておくことは、人材採用の競争力に直結すると言えるでしょう」

 在宅勤務の導入が進めば、通勤に充てていた時間で社外のオンライン講座などを受講することもできるため、社員の学び直し(リカレント教育)にもつながります。

 「例えば、企業がDX化を推進したいという場合、ゼロからDX部門を立ち上げるよりは、各部門の担当者がDXの知識を身に付けるほうが効率的だといわれています。社員が外部の講座を活用して知識の習得ができるようにするには、企業が必要に応じて費用を負担するのに加え、学習時間を確保するために在宅勤務を認めるといった働き方への配慮も必要になります」

 山口さんは、2021年10月からの約3カ月間、女性を対象にしたIT人材育成のためのリカレント教育プログラムを大学で担当。オンライン授業を中心に設計された講座では、約30人の受講生がSlackのチャットで教え合いながら学ぶ姿が見られ、「講座という形態で集まって学ぶことの相乗効果は抜群だった」と言います。「大学のオンライン講座やUdemyなどのオンライン学習サービスを活用した社会人の学び直しは、通学型のビジネススクールに通うよりは負担が少なくて済むので、DUAL世代が仕事や子育てと両立することも可能です。企業側は、社員の学び直しを支援する施策の一つという観点からも、在宅勤務制度の継続を検討してみる価値があると言えるでしょう」

育休の取り方を相談できるサービスが求められる時代に

 「育児・介護休業法」の改正を受けて、2022年10月1日からの出生時育児休業(産後パパ育休)制度では、育休の分割取得や夫婦間での交代取得も可能になります。これまでは、保育園に入るための「保活」をサポートする「保活コンシェルジュ」などのサービスを福利厚生の一環として導入する企業が多く見られましたが、今後はその育休版にあたる、育休の取り方について相談できるサービスが必要になると山口さんは見ています。

 「特に第1子の場合は、夫婦それぞれがどのタイミングで育休を取ればよいのかが分からないという人が多いのではないでしょうか。上の子がいる場合は、上の子の“小1の壁”などに合わせて育休を取得した方がいいケースもあるなど、各家庭の状況に応じてベストな育休取得時期は違ってきます。また、育休給付金の具体的な金額や、育休取得による収入の変化を事前に把握しておきたいというニーズもあるはずです」

 企業には、育休制度の個別周知や育休を取得しやすい職場環境整備といった義務はありますが、それぞれの家庭の実情に応じたアドバイスまで実施する義務はありません。そのため、山口さんは「今後は相談事業を担う第三者が企業と連携する形で、育休の取り方についてのアドバイスを行う外部サービスへのニーズが高まっていくのではないか」と予想しています。

 育休に関しては、これまでは男性が育休を取るか取らないかという点が注目されがちでした。しかし、制度の改正により選択肢が増えてきたからこそ、社員一人ひとりが「自分の家庭にとってベストの選択肢」を選べるようにサポートする仕組みが、企業側には求められる時代になりつつあるといえそうです。

取材・文/安永美穂 イメージ写真/PIXTA

山口理栄
山口企画代表、青山学院大学社会情報学研究センター特別研究員
1984年総合電機メーカー入社。ソフトウェアの開発、設計、製品企画などに従事。2度の育休を取る。2006年から2年間、社内の女性活躍推進プロジェクトのリーダーに。2010年より育休後コンサルタントとして独立し、法人向けに育休復帰社員、およびその上司向けの研修を開始。著書に『改訂版 さあ、育休後からはじめよう ~働くママへの応援歌~』(労働調査会)、『子育て社員を活かすコミュニケーション【イクボスへのヒント集】』(労働調査会)。
育休後コンサルタント.com
青山・情報システムアーキテクト育成プログラム