会社以外での役割を担う経験がマネジメントでもプラス

 相互理解を深めるためには、部下との定期的な面談も必要です。「リモートワークでは、オフィスで顔を合わせる場合と比べると部下の抱えている事情が見えにくくなるので、意識して1on1でのコミュニケーションの機会を増やすことが大切です」

 どの仕事をどこまで任せてよいかを的確に判断するためにも、管理職が部下のポテンシャルを正しく評価しておく必要があります。「前任者の評価を引き継ぐだけだと、部下の適性やキャリア志向を見誤り、チャンスを与えないことで成長の芽を摘んでしまう恐れもあります。部下が仕事に何を求めているのか、仕事以外にどのようなタスクを抱えているのかといったことは、個別に聞いてみないと分かりません。そこでも1on1でのコミュニケーションは重要な意味を持ちます。そして、この1on1のコミュニケーションを取る際、管理職が多様な立場を経験し、多様な価値観に触れていれば、部下の価値観に理解を示すことで本音を引き出せる可能性が高くなるのです」と佐藤さんは言います。

 こうした相互理解を深めておけば、部下に仕事を振った後でも、仕事を進める中で分からないことが生じた際にこまめに報告・相談を受けることができるというメリットもあります。大きなトラブルへと発展する前の時点で管理職が進捗を把握できれば、必要に応じて適切なサポートもできるわけです。

 「働き方改革で生まれた自由な時間を使い、会社以外の場所で自分とは異なる価値観を持つ人々と活動する経験を持つことは、個人の人生を豊かにするだけにとどまらず、管理職としての業務にもプラスの影響をもたらします。

 夫や妻として、父や母として、複数の役割を持つDUAL世代は、そういった出会いを好機と捉えましょう。いろいろな居場所で、多様なつながりをつくっておくことは将来的に管理職になったときに仕事でも役立つでしょう」

取材・文/安永美穂 イメージ写真/PIXTA

佐藤博樹
中央大学大学院戦略経営研究科教授、東京大学名誉教授
雇用職業総合研究所(現 労働政策研究・研修機構)研究員、法政大学経営学部教授、東京大学社会科学研究所教授などを経て現職。専門は人的資源管理。内閣府 ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経済産業省 新・ダイバーシティ経営企業100選運営委員会委員長などを歴任。著書に『ダイバーシティ経営と人材活用 多様な働き方を支援する企業の取り組み』(共編著、東京大学出版会)、『働き方改革の基本』(共著、中央経済社)、『多様な人材のマネジメント』(共著、中央経済社)、『日経DVD 働き方改革を成功させる ダイバーシティマネジメント』(監修、日本経済新聞出版社)『働き方改革とカップルの子育て ワークライフバランス [DVD]』(監修、日経BP 日本経済新聞出版本部)ほか。