子育てや教育について「何か違う気がする」とひっかかることがあっても、じっくり考えることなく、そのままにしてしまっていませんか? 「とりあえずみんなと同じ」道を選択して安心しようとしている人もいるのではないでしょうか。

しかし、何かひっかかる背景には、自分の価値観とずれがあったり、社会的な問題が隠れていたりすることも。そうしたモヤモヤに向き合い、問題の本質を明らかにして考えることが、周囲に流されない子育てにつながっていくはずです。そこで本特集では、働く親が抱くモヤモヤについて、専門家に「そもそも、どうしてそうなっているの?」の疑問をぶつけました。ぜひわが子の子育て・教育のヒントにしてください。

「就学前の時期ほど投資効果が高い」の本当の意味とは?

 都市部を中心に教育産業が過熱しています。「英語は早期から始めたほうがいい」「早いうちに幼児教室に通うとできることが増え、自信にもつながる」などと耳にすると、心がザワつくもの。「小さいうちが肝心」と思えばこそ、氾濫する情報の中で、この時期本当に必要な教育とは何かを判断することが難しく感じるかもしれません。

 これに対し「『小さいうちが大事』というのは正しいです。乳幼児期はこの先の長い人生を生きていく心と体の基礎を作る大事な時期です」と話すのは、子どもの心の発達に詳しい、東京大学大学院教育学研究科教授の遠藤利彦さんです。

 「2000年にノーベル経済学賞を受賞した米国の経済学者、ジェームズ・ヘックマンという人がいます。ヘックマンは教育政策にも力を入れて研究しているのですが、その研究の中に『就学前の時期の教育ほど投資効果が高い』というものがあります」

 こう聞くと「やはり早期教育には効果があるのだな」と思ってしまいますが、遠藤さんは「そういうことではない」と話します。

 「ヘックマンは『何かができるようになるための知育教育や認知教育をすべきだ』と言っているのではありません。むしろこの乳幼児期を、単に学童期以降の準備期と位置づけて『できること』を増やすため、あるいは学校に入ってからただ困らなくて済むために費やしてしまうことはもったいないです。そうしたことばかりに時間を費やすことは、むしろマイナス要素のほうが多くなってしまうリスクもあります。乳幼児期に身に付けるべきは『心の力』です」

 遠藤さんによると「心の力」は就学後の学力や人生の質そのものにも影響するほど大事な力なのだそう。では、この「心の力」とは具体的にどんなもので、どのように身に付けていけばよいのでしょう。また、ヘックマンの言う「就学前の教育ほど投資効果が高い」とは、実際には何を意味するのでしょう? ここから遠藤さんに、「早期教育」が気になる乳幼児期の子どもを持つ親が知っておくべきこと、大事にすべきことについて詳しく聞いていきます。

就学前に真に育むべき「心の力」とは?

・「心の力」が就学後の学力や人生の質につながるのはなぜ?
・乳幼児期こそ「心の力」が身に付きやすいのはなぜ?
・「心の力」を身に付けるために必要な経験とは?