男性育休の取得推進が企業で義務化されるなど、日本全体で男性の育児を後押しする動きが広がりつつあります。パパたちの中には「もっと積極的に育児をしたいのに、なかなか思い通りにできない」と、職場環境などとのギャップに不安を抱え、もやもやしている人もいるでしょう。パパの子育てを阻む社会構造を明らかにするとともに、当事者たちのもやもやを取り除くヒントを紹介します。

 特集1本目「データで検証『パパの育児と仕事の両立』に必要なこと」で紹介したとおり、パパが子育てに思うように関われていない理由として「収入の壁」があります。共働き子育ての最初のステップである男性の育休取得率が上がらない理由の一つにも「お金の不安」があるようです。ファイナンシャルプランナー(FP)の前田菜緒さんと、家族社会学・計量社会学を専門とする立命館大学産業社会学部教授の筒井淳也さんに、そうしたお金の不安の「本当のところ」を教えてもらいました。

なぜ「育休を取ると収入が減る」と思うのか

 「育休を取得すれば給料が減り、暮らしが厳しくなるのでは?」と考え、取得をためらうパパもいるかもしれません。しかし、ファイナンシャルプランナーの前田菜緒さんは「一定の月収までであれば、育休取得が家計に大きなインパクトを与えることはありません」と言います。

 「育休期間中は給料が支払われません。その代わりに、雇用保険制度の給付の一つとして『育児休業給付金(育休手当)』が男女を問わず支給されます。そして、ポイントは育休中は社会保険料負担が免除になることです」と前田さん。

 「毎月、給与から天引きされている健康保険料と厚生年金保険料の負担はかなり大きいものですが、育休期間中は免除になります。もちろん、払ったものとみなされるので安心してください。これによって育休前の手取りの8割は実質的にカバーされます。むしろ、場合によっては育休を取るほうが手取り金額が増えるケースもあります」と前田さん。これについては4ページ目で具体的に紹介します。

 また、「短期間での育休取得でも保険料が免除される要件が追加されました。2022年10月から育児休業中の社会保険料免除要件が変わります」と前田さん。男性が育休を取得しやすいよう制度が整えられているのです。

 実際にパパが育休を取得したところで、家計がすぐにダメージを受けるわけではないのです。共働き家庭で、ママとパパが交互に育休を取得するのであればなおさらです。では、なぜ「育休を取ると収入が減る」というイメージを世の中のパパは抱きがちなのでしょうか。立命館大学産業社会学部教授の筒井淳也さんは「『育休を取得するという事実』がキャリア形成の妨げになるという考えが根強いからです」と指摘します。

 「上司は育休を取っていいと言うけれども本当に取ってもいいものだろうか。ましてや上司や職場にも歓迎されていないのに無理を言って取得してもいいのだろうか。そうした場合、この先のキャリアが断たれてしまうのではないか……。キャリア志向の人であれば、男性も女性も、育休を取った『その先』に怖さを感じているのです

 では、「キャリアが断たれるかもしれない」という不安はどのように払拭すればいいのでしょうか。