男性育休の取得率は7%程度で、国が掲げる目標の13%にほど遠いのが実情です。政府は企業に男性育休の取得を勧奨する義務化を進め、22年から施行される見込みです。しかし、育休を取りたいけれど仕事に穴をあけたくないパパ、育休を取らせたいけど欠員補充がなくて悩むマネジャーなど、それぞれの立場ならではの悩みや課題はつきません。そうした課題を、先駆者や先進企業はどう乗り越えたのでしょうか。

 育休を取りたくても周りに迷惑をかけることを気にして前向きになれないパパ、欠員補充がなくて悩む管理職、制度がこれからどう変わるのかが気になる人事・ダイバーシティ推進部……。特集1本目「男性育休『なぜ弊社で進まない?』 それぞれの悩み」では、それぞれの立場の典型的な悩みを紹介しました。ただ、どの立場の人も、まずは、男性育休の制度について、正確に理解することがとても大切です。そこで本記事では、これから制度がどのように変わっていくのかを解説します。

 政府は2月26日に、男性に育児休業の取得を促すことを狙いとした、育児・介護休業法の改正案を閣議決定しました。子どもが生まれた直後に、父親に限って通常の育休とは別に取得できる「出生時育児休業」(男性版産休)を新設します。今国会に提出し、成立すれば22年秋ごろに制度が始まる見通しです。

 今回の改正法では、男性が休みを取りやすくなるように育休制度が大幅に見直され、企業には男性の育休取得を促進するためのさまざまな義務が課されることとなります。具体的に何がどう変わるのか、東レ経営研究所ダイバーシティ&ワーク・ライフ・バランス推進部チーフコンサルタントで、NPOファザーリング・ジャパンの男性育休推進担当理事を務める塚越学さんに聞きました。

男性育休義務化 何が義務なのか?

 「今回の改正案に関しては、報道などで男性育休の『義務化』という言葉がよく使われていますが、『義務化』の意味を誤解している人がいるかもしれません」と、塚越さんは指摘します。

 「今回の改正案に盛り込まれている『義務化』は、企業に対して、育休制度の個別周知や職場環境の整備などを義務づけるという点です。男性の従業員個人に対して『子どもが生まれたら必ず育休を取得しなければならない』と義務づけるものではありません。『こういう制度があるので育休を取ってくださいね』と個別に働きかけるところまでは企業の義務ですが、取るか取らないかは個人の判断に委ねられます」

 19年に施行された働き方改革関連法では、企業は年間10日以上の有給休暇が付与されるすべての労働者に対し、年5日の有休を実際に取得させることが義務化されました。「義務化」という言葉をそれと同様にとらえると、男性育休も年5日の有休取得と同様に「全員が取得しなければならないもの」と誤解してしまうこともあるかもしれません。ですが、男性育休は取りたくない人にも取らせるという義務化ではないということは、押さえておきたいポイントです。大きな変更は以下の4つです。

2022年からの変更ポイント

・「男性版産休」の新設
・育休の分割取得可能
・企業には取得率の公表義務
・非正規労働者の取得条件を緩和

 具体的に何がどう変わり、育休取得を考えている人、企業の人事担当者は何をしなければならないのでしょうか。次ページから詳しく紹介します。