どんなに仕事が好きでも、親になると「子どもを優先すべきでは」というマインドが生まれます。すると、子育てや仕事がうまくいかないときにふと顔を出すのが「やめたい」という気持ちでしょう。でも、再就職の厳しさを考えれば、やめないほうが賢い選択かもしれません。せっかくなら「やめたい」気持ちを飲み込むのではなく、ポジティブな行動やマインドで乗り越えていきたいものですね。そこで今特集では「やめたい」原因を解決するために知っておきたい攻めの戦略を紹介します。

 残業や業務過多によるキャパオーバーが原因でワークライフバランスが崩れてしまったとき、会社を辞めたくなったり、転職が頭をよぎったりする働く親は少なくありません。しかし、子どもが手のかかる時期は特に、満足できる転職は簡単にできるものではなく、大きなエネルギーが必要になります。であれば、今いる会社や上司に働きかけ、ワークライフバランスが取れる働き方を相談・交渉することで、離職を防ぐことも1つの手です。

 しかし、ただ単に今の部署の問題点を挙げて異動の希望を出すだけではうまくいかないどころか、今後の人間関係が円滑に進まなくなる大きなリスクも。交渉する前に準備しておくべきことや、交渉するタイミング、社内の人間関係への配慮などのポイントを押さえた上で、会社への交渉に踏み切る必要があります。交渉は時間がかかるものだと認識することも、諦めずに乗り切るためのポイントです。

 本記事では、実際に会社に働きかけ、希望の部署への異動をかなえた働くママの成功例を紹介しつつ、両立しやすい環境を手に入れるために会社にうまく交渉する方法や、普段から取っておくべき行動などについて、コミュニケーションやプレゼンテーションなどの企業研修を担当する、キャリアコンサルタントの岩淺(いわあさ)こまきさんに聞いていきます。

「必死の努力」が周囲への誤解を招く

 まずは、メーカーに勤務する橋本菜緒さん(仮名・40代)の成功例を紹介します。2人目の子どもが1歳4カ月になったときに、産休・育休から復帰した橋本さん。しかし、復帰して数カ月で担当していたプロジェクトが廃止になり、部署が解散することになりました。辞令が下りた異動先は非常に忙しく、深夜残業も当たり前という環境。おまけに男性社員が9割の中、幼児を育てながら働くママは橋本さんともう1人のみ。しかし、そのママ社員には仕事上、柔軟に動ける夫がいて、深夜まで働く環境が万全に整えられていました。

 「子育てとの両立に不安しかなかった」と橋本さんは当時を振り返ります。頑張り屋の橋本さんは、夫や実母の協力を得ながら他の社員と同じように深夜まで働き、ときには断りにくい部署の飲み会にも参加しながら円満な人間関係を築き、きちんとノルマをこなして上司の期待に応えていきました。

 しかし、この必死の努力や家族の協力が裏目に出たと橋本さんは言います。