低カロリーな活動で暇つぶしをさせない

 そもそも子どもは好奇心の塊です。じっとしていることがなく、絶えず、何かに興味を持っているように見えますが、それは探究心が育っているとは言わないのでしょうか。

 「確かに、子どもというものは、何もせず、ぼんやりとしていることができません。だから、熱中するものを求めて、ゲームやスマホ、YouTubeに夢中になりますが、これは、探究心を働かせている状態ではありません。スマホやゲーム、動画は受動的な活動です。私はこれらを『低カロリー』な活動と呼んでいるのですが、反対に探究心を育む活動はとても『高カロリー』な活動です。夢中でレゴブロックを組み立てたり、昆虫を探したり、恐竜のことを調べたりと、探究心を働かせている子どもは、最後にはグッタリしています。そのくらいエネルギーを消費し、創造するからこそ、探究心が磨かれるのです」

 しかし、「今は子どもたちの探究心を伸ばしていくことが難しい環境にある」と宝槻さんは指摘します。「50年ほど前、子どもたちの祖父母が子どもだった頃は、家の周りには自然がありました。子どもたちは本能的に熱中するものを探しています。そのため、自然の中から興味の対象を見つけ出し、能動的に試行錯誤していきました。自然が子どもたちの探究できる場だったのです」

 今は身近な自然は少なくなり、子どもたちの回りには、スマホやゲームといった「低カロリー」な活動が増えました。「だからこそ、親が探究心のきっかけを作っていくことが重要なのです

 それは、例えばスポーツの試合やコンサート、プラネタリウム、博物館へ連れて行ったり、映画を見たり、レゴや歴史の本や漫画を買ってきたりすること。「子どもたちは、自分が何を知りたいかも知らない状態です。大人ができることは、まず、きっかけを作ってあげることです。子どもが興味を持てることを見つける手伝いをしてあげることです」

探究心の火を消さないために、提案を続けよう

 宝槻さんはこのような最初のきっかけ作りを「タネをまく」と言います。タネをまき、子どもが興味を持った状態が「芽が出た」段階です。「『探究心に火がともる』と例えることもあります。芽を育てること、火を消さないことが、親の大切な役目です。というのも、火は簡単に消えるからです」

 「ステップを詳しく解説していきましょう。例えば、まずプラネタリウムで宇宙や星空についてとてもエキサイティングな話を聞いたとします。『わぁ、宇宙って面白いな』とA君の探究心に火が付きました。さて、どうしますか?」

 うーん。例えば、図鑑を買ってきてあげるとかはどうでしょう。

 「いいですね。それから?」

 宇宙に興味を持ったのだから、図鑑を読み込んで、自然と宇宙好きになるのではないのでしょうか?

 「いえいえ、図鑑を買ってきて渡すだけでは、A君の探究心の火は3日で消えてしまいますよ。せっかく宇宙への探究心が芽生えたのに、A君の宇宙への探究はそれ以上の深まることはないでしょう」

 ……。ではどのような働きかけが必要だったのでしょうか。

 「図鑑を買ってくる。これはいい働きかけですね。惜しいのはそこで、引き続き子どもの様子を見たり、次の働きかけをしたりしなかったことです。例えば、その後のステップとしては、宇宙飛行士が出てくるマンガを渡したり、実話を元にした映画を『これを見てみる?』と一緒に見てみるいうことが考えられます。NHKオンデマンドなどで配信しているドキュメントも、探究心を磨くのには良い素材です」

 大切なのは一度に与えすぎず、1つ1つの素材に熱中する時間を取ること。しかも、火が消える前に、次の素材を提案することです。そうするうちに、子どもの心には『宇宙って遠い存在だったけど、こんなふうに宇宙飛行士になることもできるんだ。宇宙って身近だな』という気持ちが芽生えてきます。そこで次はこれです! 『JAXAに見学にいってみない?』」