写真提供:ピープル・ツリー
写真提供:ピープル・ツリー

企業や消費者から注目を集めるキーワード「エシカル」。ecomom誌面では記事としても連載コラムのタイトルとしてもおなじみの言葉です。その「エシカル」が、改めて注目を浴びています。そこで改めて「エシカル」の意味最近の情報について一般社団法人エシカル協会代表理事であり、フリーアナウンサーとしても活躍する末吉里花さんに聞いてみました。(聞き手はecomom編集長・村上富美)

村上 「エシカル」というキーワードが、ここにきて日本でも注目を集めています。改めて「エシカル」という言葉の定義を教えていただけますか?

末吉 エシカルとは「倫理的」と直訳できますが、多くの人たちが正しいと思っていること。人間が持つ良心から発生した規範がエシカルです。

なぜ最近、エシカルがこれほど注目されるようになったのでしょう。

 理由の一つは経済のグローバル化だと思います。今、ファストファッションが流行っていますよね。値段の安さを武器に世界に店舗網を広げている、まさに大量生産、大量消費の消費スタイルの象徴的存在です。

 けれどその陰で何が起こっているか。ポリエステルやナイロン、アクリルなど安価な化学繊維の洋服の原料は石油。大切な地球資源です。また、洋服の生産現場では大量の水を使います。1枚のTシャツが出来上がるまでに、約2000ℓの水を使うという試算もあります。

スポーツブランドなどの製造現場では児童労働も問題になりましたね。

インドの工房で朝から晩まで働かされている子どもたち(写真提供:ピープル・ツリー)
インドの工房で朝から晩まで働かされている子どもたち(写真提供:ピープル・ツリー)

 国際労働機関の2013年の統計では発展途上国では、貧しさゆえに学校にも通えず、働かざるを得ない子どもが1億6800万人います。世界の子どもの9人に1人という割合です。

 多くのブランドが製造コストを抑えるために人件費の安い国へと生産拠点を移していますが、実際の現場では、劣悪な環境で働かされる人が多いのも事実です。

 2013年、バングラデシュの首都ダッカで、縫製工場が入ったビルが倒壊し、約1100人以上の労働者が犠牲になりました。建物にはヒビが入っており、労働者から「危険だから中に入りたくない」という声が上がっていたにも関わらず、経営側は「仕事をしないなら給料も払わない」と宣言、労働者たちがしぶしぶ作業に戻ったところ、ビルが崩れるという悲劇でした。

 この事件は『ザ・トゥルー・コスト ~ファストファッション 真の代償~』というドキュメンタリー映画が製作されるきっかけにもなりました(2015年11月14日より渋谷アップリンクで公開予定)。日本に住む私たちが手にするような安価な製品も、こういう状況で作られているかもしれないということを、一度考えてみてほしいです。

2013年バングラデシュで縫製工場が入ったビルが倒壊。多くの若者が命を落とした
2013年バングラデシュで縫製工場が入ったビルが倒壊。多くの若者が命を落とした

痛ましい事件ですね。消費者にとって安い製品はありがたいものですが、考えさせられます。ecomom読者も児童労働の問題には関心が高いのですが、どうすれば、よりエシカルな消費ができるようになるのでしょうか。

 買い物をする際に、その製品がどこで、誰が、どのように作ったのか、意識をしてみることが大切です。フェアトレードと一般的なチョコレートがあれば、フェアトレードを選んでみる。10回に1回の買い物を意識してみるということを、多くの人が取り組めば変化が起きます。

 例えば、フェアトレードの認証マークや環境配慮型のエコマークといった認証マークを目印に買い物をするのもひとつの手段です。併せて、地産地消など流通による環境負荷が低く、地域経済を活発にする消費も、エシカル消費と言えます。一番大切なのは、スーパーやお店に消費者の声を届けることです。環境や社会に配慮した商品を置いてほしい、とリクエストすることで、お店側もその声を真剣に受け止めてくれるはずです。

末吉さんも昨年、エシカル協会を設立されて情報を発信しておられますね。

 2010年からフェアトレードの講座を開くなど活動していましたが、昨年、エシカル協会として新たにスタートし、今年11月には一般社団法人になりました。講座やワークショップを開いたり、エシカルな消費についての啓蒙活動を進めています。
http://ethicaljapan.org/

 今年5月には、消費者庁に倫理的消費調査研究会が設置され、倫理的消費のあり方を検討するなど、日本政府も消費者の理解を深めようと動き始めています。

そもそも末吉さんがエシカルについて興味を持ったきっかけを教えていただけますか?

 私は以前、「世界ふしぎ発見!」というテレビ番組のリポーターを務めていました。体力があったので世界の秘境を取材して回ったのですが、その仕事で2004年にアフリカ最高峰のキリマンジャロに登りました。

アフリカ最高峰のキリマンジャロに登頂。アフリカの生活用水の源である氷河が温暖化で失われていることに衝撃を受けた
アフリカ最高峰のキリマンジャロに登頂。アフリカの生活用水の源である氷河が温暖化で失われていることに衝撃を受けた

 登山の前にふもとの村にある小学校を訪れて、山の保全のために植林活動を続ける子どもたちに会いました。その子どもたちから「頂上にある氷河が解けていると聞いている。見てきてほしい」と言われたのです。氷河の雪解け水は、子どもたちが住む村はもちろん、多くのアフリカの人にとっての生活用水なので、氷河が溶けるということは彼らにとっては死活問題でした。

実際に登ってみたらどうだったのですか?

 なんと氷河は、かつての1割くらいしか残っておらず、後わずかといえる程度にまで解けていました。そのとき初めて、私は地球温暖化の現実を目の当たりにしました。日本にくらべてはるかに質素で慎ましい暮らしをしている彼らの生活が、さらに厳しい事態に直面していることを知り、何か私にできることはないかと考えました。

 また、世界各地の秘境をめぐる中で共通して見えてきたことは、一握りの権力や利益のために、弱い立場に置かれている人たちや美しい自然が犠牲になっている、という社会の構造です。

ピープルツリー創始者のサフィア・ミニーさん(左)のフェアトレードに取り組む姿勢から多くを学んだ。ミニーさんは功績が認められ大英帝国勲章を授与されている(写真提供:ピープル・ツリー)
ピープルツリー創始者のサフィア・ミニーさん(左)のフェアトレードに取り組む姿勢から多くを学んだ。ミニーさんは功績が認められ大英帝国勲章を授与されている(写真提供:ピープル・ツリー)

エシカルについて、どうやって勉強したのですか?

 最初は手当たり次第、環境問題に取り組む活動をしました。特に大きな影響を受けたのが、日本で最大のフェアトレードブランド、ピープルツリー創始者のサフィア・ミニーさんとの出会いです。

  私はファッションが好きなのですが、雑誌「VOGUE NIPPON」にとてもおしゃれなワンピースが掲載されていて、それがピープルツリーの製品でした。世界をファッションで変える、というスローガンをもとに、環境にも配慮しながら、途上国の生産者の生活改善と自立を支援し、消費者もその素敵な製品に満足する。そんな取り組みを応援していくフェアトレードの活動を私のライフワークにしたいと思ったのです。

 フェアトレードの活動を始めて今年で10年になりますが、東日本大震災をきっかけに、エシカルという概念が日本にも入ってきたこともあり、フェアトレードを含むエシカル消費を推進する活動へと変わっていきました。

フェアトレード商品につけられるラベル
フェアトレード商品につけられるラベル

今後エシカルはさらに広がっていくのでしょうか。

 実は若い世代ほど、フェアトレードに関心があるという調査があります。今、小中学校の社会科や英語、高校の現代社会や家庭科の教科書にはフェアトレードについての紹介が載っています。高校入試や大学入試でも、フェアトレードが出題されるほどです。

 全国の大学には60のフェアトレードサークルがあります。大学生を対象にした調査では、9割以上の学生が「フェアトレードを実践する企業を応援したい」と答えているんです。

若い人にそれだけ支持されているなら、企業も無視できませんね。

 イギリスやアメリカでは、消費者向けにエシカルな商品情報を紹介したサイトが開設され、多くの人が閲覧しています。企業のエシカルに対する取り組みを格付けする組織も誕生しています。日本もこれからそういう方向に動いていくと思います。

消費者としてもエシカルを意識していく必要がありますね。今日はありがとうございました。

(2015年11月25日)