3回目を迎えた「食とくらしがつくる地球の未来 みんなでいっしょに考えよう 〜 夏休みチャレンジ〜」(食とくらしのサステナブル・ライフスタイル研究会、川崎市主催)。8月18日、川崎市に住む小学5年生とその保護者が、「味の素ワクワク工場探検」のために同社の川崎工場を訪ねました。
今回のテーマは“食”。世界の食資源の現状を学んだり、エコでおいしい料理を作ったり、さらに味の素の環境に配慮したモノづくりの現場や排水処理施設を見学したり、盛りだくさんのプログラムでした。
また、子どもたちだけでなく参加したママたちも、企業の社員や川崎市の職員とみんなでいっしょに“グループワーク”をしました。今回、何を学び取ったのでしょうか。その様子をレポートします。(取材・文=松田慶子、写真=北山宏一)

このプログラムを通じて、未来を担う子どもたちが、毎日の暮らしと環境課題とのつながりに気づき、その解決のために、自分のライフスタイルを見直し、未来の心豊かな暮らしに向けて行動する力を身につけてもらうことを目的としています。ごみ処理施設や洗剤、食品の工場見学のほか、環境についてのお話や実験、グループワーク、さらに環境日記をつけるといった、多彩な活動が盛り込まれています。

「夏休みチャレンジ」第1回は川崎市のごみ処理施設、浮島処理センターを見学、かつては公害で知られた川崎市がエコ先進都市として、環境問題に取り組んでいることを学びました。
第2回は花王の川崎工場を訪れ、企業が資源の有効活用に努力している様子に触れると同時に、水や資源には限りがあり、ムダにせず、循環させることが大切であるという気づきを得ました。
第3回の舞台は、10万坪という広い敷地に建つ川崎市川崎区の味の素川崎工場です。
世界の食べ物の3分の1は捨てられている!
この日のプログラムは、味の素グローバルコミュニケーション部PR・CSRグループマネージャーの坂本眞紀さんによる、食と「ほんだし」のエコのお話からスタートしました。
「世界には“食”に関する課題がたくさんあります。今、世界の人口は73億人、2050年には97億人になると予想されています。食料生産量を今より60%増やすことが必要と言われています。でも、耕作できる面積には限りがあって、そんなに増やすのは困難です。一方で、世界全体でみると、食べ物の3分の1は捨てられていると言われています。もったいないよね!
だから、味の素は、自然の恵みをムダなく活かし切るモノづくりをしているのです。例えば、『ほんだし』。原料のカツオからかつお節をつくる際に出る煮汁を煮詰めてカツオエキスにして活用しています。頭や内臓は発酵させて魚醤という調味料に、骨は砕いてカルシウム食品に。そして、製造過程で出る残りは有機質肥料や飼料としてムダなく活かし切っています」

ここで全員に、紙コップが配られました。中身は味噌を溶いたお湯です。一口味わう子どもたち。次に「ほんだし」を少量入れます。再び口にすると「味噌だけのときより、おいしくなった」「味が濃くなった」と、声が上がりました。
「だしは味を濃く感じさせ、食べ物を引き立てる、和食の要です。かつては、毎日、かつお節を削ってだしをとっていました。手作りのだしは、香りがよく、おいしいけれど日持ちしない。顆粒状に加工した『ほんだし』は日持ちする上、いつでも削りたての香りが楽しめる。そして、必要な時に必要な量を使うことができ、汁物をはじめさまざまな料理に使えます」と坂本さん。

「『ほんだし』には、3種のかつお節が使われています。かつお節を作る際は、カツオを丸ごとムダなく活かし切ることを心がけています。
また、近年は世界中でカツオが食べられるようになり、ほかの国で獲られる量が急増しています。味の素では、これからも『ほんだし』を食卓にお届けし続けられるように国の研究機関と共同で、カツオの生態を調査しています。カツオにタグ(目印)をつけて放流し、どんなところを泳いで、どう成長するのかデータを集めているんです」
坂本さんは続けます。
「企業は、大切な食資源を守るために、様々な努力をしています。では家庭では何ができるのでしょうか。一緒に考えていきましょうね」
かつお節削りを体験。「楽しいけれど面倒!」

続いてはお楽しみの1つ、「ほんだし」工場の見学です。工場では、見学の前にかつお節削りに挑戦。昔の人がだしを取るため、どんなことをしていたのかを実感しました。
料理が好きで、みそ汁も作るという、まみちゃんは、「かつお節はおいしいけれど、削るには力が必要。毎日削るのは面倒」と話します。

「ほんだし」に使われるのは、静岡県の焼津や、鹿児島県の枕崎で水揚げされたカツオです。そのカツオはかつお節工場に運ばれ、職人が「ほんだし」用に3種類のかつお節に燻し(いぶし)分けます。川崎工場では、このかつお節を細かく砕いてパウダー状にし、そこに調味料を加え、顆粒状に乾燥させます。最後に検査し、包装して完成です。子どもたちは製品ができていく様子を、ガラス越しに熱心に見ていました。
「どうやって作られるのか全然知らなかったから、面白かった。工場はおいしそうないい香りだった!」と、見学を終えたよっぴーが顔をほころばせます。
みんなで作った料理。おいしいね!

工場見学の後は、お待ちかねの「エコうま」料理教室です。5グループに分かれて、エコポイントを意識しながら4品を作ります。「ほんだし」を混ぜたおにぎり3種、冷蔵庫に残った野菜もムダなくおいしく食べられる豚汁、身が固くパサつきがちな鶏のむね肉を、「お肉やわらかの素」を使ってやわらかく食べやすくした「やわらか鶏むねステーキ」、手軽にできる「ほんだし こんぶだし」を使った「手作り浅漬けきゅうり」の4品です。
まずは、先生が、作り方のポイントを説明しながら、デモンストレーション。みんな真剣な表情で見つめます。続いて、子どもたちがつくる番です。包丁を扱い慣れている子、ほとんど握ったことのない子などさまざまですが、自分たちで役割を分担して、力を合わせて作っていきます。
けがをせず上手に切れるか、三角おにぎりを上手に握れるか、見守るスタッフがヒヤヒヤするシーンも見られましたが、どのグループも、ママたちの分も含め、無事に作り終えました。

出来上がった料理は、ママたちの待つ会議室に運び、一緒にランチを食べました。
「お肉がやわらかいし、おにぎりもおいしい!上手にできた」と、あみちゃん。4品もの料理を最初から最後まで任されるのは、多くの子にとって初めての経験でしたが、「協力し合ったから楽しくできた!」と、みんな満足げに話してくれました。
子どもの横で、ママたちも「子どもの手料理は初めて。おいしいです」と笑顔で味わっていました。
食べた後の片付けも、自分たちで。
前回、花王の工場で、水資源の大切さを学んだ子どもたちは、今回改めて、「環境を考えた食器の洗い方」について説明を聞きました。「油汚れは古い紙などで拭き取ってから洗う」「すすぎの水は鉛筆くらいの太さで」と、環境に悪い影響をなるべく与えないような食器の洗い方の工夫を習った子どもたちは、自分たちが使った食器をていねいに洗っていました。
「正しい洗い方は、思ったより難しくない。これなら家でもできるかも」(ようこうくん)という声も聞かれました。
親子とも家庭での行動に変化が…

子どもたちが料理をしている間、保護者は別室で意見交換を行いました。
テーマは、「夏休みチャレンジ」に参加してからの子どもの変化と、環境問題に関するママたち自身の意見や意識の変化についてです。
まずは子どもの変化について。
「初回に訪ねたごみ処理センターで、手作業によるごみの選別を見て以来、自分からごみの分別をするようになりました」「シャンプーのときに水を出しっぱなしにしていたことに気づいて、止めるようになりました」。はたまた「分別しない家族を注意するようになりました」「すすぎ1回の洗剤を使うとき、洗濯機はすすぎ1回にしてる?と確認されます」など。
こうした声から、子ども達が家族を巻き込んで、学んだことを、毎日の生活の中にしっかりと組み込んでいる様子が窺えました。
さらに、ママたち自身にも、いろいろな気づきがあったようです。
「地球上に私たちが使える水はわずかしかない、という前回のお話を聞き、資源を循環させる必要性を痛感しました」「川崎に工業地帯があることに改めて気づきました。そして、その工場がしっかり環境対策をしていると知り、うれしくなりました」「環境にとって何が正しいのか、考えるようになりました」
また、「プラスチック類は“きれいにして捨てること”とあるけれど、きれいの基準は一人ひとり違うので、判断が難しい」など、エコを考えるゆえの悩みも飛び出しました。子どもと一緒に「夏休みチャレンジ」に参加したことで、ママたちの意識も変わったと感じさせる、話し合いの場となったようです。
施設見学で納得! 水もエネルギーも活かし切る

午後は、味の素川崎工場のエコへの取り組みに迫ります。
製造の現場でのエコの取り組みについて説明してくれたのは、川崎工場原動課係長の倉田和房さんです。
「この工場からは、1日に4200㎥の排水が出ます。25mプール13杯分に相当します。これをそのまま川に流すと、川が汚れてしまいます。特に排水中に含まれる窒素やリンは、赤潮や青潮を引き起こす原因になります。
そこで川崎工場は、排水をきれいにして多摩川に還そうと、2012年に排水処理設備を新しくしました。微生物の力を使って排水から汚れを汚泥として取り去っています。ここの排水は、水中の汚れ成分の量を、国が定めた法規制値の15分の1〜50分の1にまで減らして川に戻しているんですよ。一方で、取り去った汚泥には植物が育つのに有効な成分である窒素やリンが含まれており、乾燥させて肥料の原料にしています」
お話を聞いた後、実際にその排水処理設備を見に行くと…。設備の大がかりなことにびっくり!

続いて、工場内にある発電設備も見学しました。
「ここでは6基のガスエンジンで、都市ガスから電気と熱をつくります。発電量は2万8000kWh。その半分は工場内で使い、残りの半分を電力会社に供給しています。これは地域の3万5000軒分の電力がまかなえる量です。さらに、発電の過程で発生する熱は、製品を作る際の加熱や殺菌などに利用しています」
この他、液体調味料の製造工程で出る大豆の搾りかすを川崎バイオマス発電所に供給するなどの取り組みも行い、すべての資源やエネルギーを活かしきる、使いきるという努力で、川崎工場では再資源化率100%を達成しているという説明もありました。
「食品工場のイメージが変わった」とは、じんたろうくんの感想です。「食べ物に関係のない設備が多いことに驚いた」。この言葉は、多くの参加者にとっても共通の思いでしょう。味の素が、食品を作るだけでなく、資源やエネルギーを循環させることをいかに大事にしているのか、ママたちも感心したようです。
家庭でできることはいっぱいある!
最後は1日のまとめの時間です。午前中に坂本さんから、「家庭でできることは何だろう」という課題をもらって、すべてのプログラムを終えた今、その答えは見つかったのでしょうか。
改めて気づいたこと、感じたこと、家でやってみたいことを尋ねると――。
「原料のカツオを骨まで使い切っていることが印象的だった」「料理を通して地球の環境を良くすることができると知った」「環境にいい食器の洗い方は家でもできると思った」。中には「さっき、きゅうりの浅漬けをつくるとき、むいた皮がもったいなかったと思った」との声も。料理の先生から、「そうですね。今日は時間が短かったので、早く味が染みるように、少し皮をむきましたが、おうちで作る時には、皮はむかなくてもいいですよ」とアドバイスがありました。
子どもたちは、身近な企業の環境に取り組む努力を知り、自分たちの暮らしの中の、小さな心掛けの大切さにも、改めて目が向いたようです。
「料理も片付けも、みんなでやると早く済む。今度はお母さんを手伝ってあげたい」という声もあがり、ニッコリするママたちも。
次回はいよいよ最終回。8月27日に川崎市産業振興会館で、子どもたちが成果発表を行います。3日間の見学や体験を通じて、子どもたちは多くの発見や気づきを得ました。
それがどんな言葉で発表されるのか、楽しみです。


夏休みチャレンジの様子はこちらでも紹介されています。
http://begoodcafe.com/news/challenge2016
(2016年8月25日)