エコ・ツーリズムイベントを隔年で開催し、エコ先進国として君臨するオーストリア。そのイベントに参加してエコな目でオーストリアを見てみたら、オーストリア人の環境維持や食の安全性に対する意識の高さにびっくり! 自然を観光素材として大切にするだけでなく、ライフスタイル自体がすでにエコマインドなのでした。(文・写真:岩佐 史絵(トラベルライター))

混じりけなしのフレッシュジュース

 ホテルで朝食をいただくところから、オーストリアのエコ体験は始まります。清涼な空気に鮮やかな緑と青がまぶしい山間ののどかな風景。それを眺めながら食事をするだけでも十分気持ちがよく、心洗われるような気持ちになってきます。大切な朝の食事、バフェにはなにがあるのかな、と見に行くと、ジュースコーナーに気になるものが!

 山と積まれた生野菜や果物、その横にジューサーがぽん、と置いてあります。野菜の種類はにんじん、パプリカ、トマト、カブの仲間でしょうか、日本ではあまり見かけない野菜もあります。自分で好きなものをジューサーにかけて、その場でジュースを作るのですが、これがとっても人気。並んでいるのはすべて地元産のものだそうで、その新鮮さはいうまでもありません。

 そういえば、スーパーでもフレッシュジュースの販売機を見たことがありますが、これも自動でオレンジを目の前で絞ってくれるマシンでした。「フレッシュジュース」というからにはまさに搾りたてでなければ! ということもあるのでしょうけれど、こういったものが当たり前に生活の中にあるのは、食の安全性や自然環境保護に対するオーストリアの人々の意識がとても高いことの表れです。

リークやズッキーニもジュースにするのかしら。と驚きつつもフレッシュなジュースに感動
リークやズッキーニもジュースにするのかしら。と驚きつつもフレッシュなジュースに感動
スーパーでも見かける、オレンジのジューサー。砂糖が入っていない、濃縮果汁でもない、本物のジュース
スーパーでも見かける、オレンジのジューサー。砂糖が入っていない、濃縮果汁でもない、本物のジュース

地元産かつ旬のものが一番!

 自然環境保護にとって理想的な食のありかたは、まずは、その地で採れた食べ物をいただくこと。今や多くの人が知っていることですが、外国産の食べ物が安く手軽に手に入る現代においては実践するのは簡単なことではありません。

 ですが、オーストリア人に話を聞くと、少々高くても地元産の、少なくともオーストリア産の食材を買うという人が圧倒的に多いのです。旅行業者の方によると、「オーストリアは小さな国ですから、昔から自分たちで作ったものを自分たちで消費するのが当たり前だったのです」。実にシンプルなライフスタイル。そういえばレストランに行っても、メニューにはそのときの旬のものばかりが並び、逆に旬を過ぎるとまったくといっていいほどその食材の姿が見えなくなります。

7月のオーストリアといえばアンズ茸。キノコソースだけをパスタにかけてもおいしそう!
7月のオーストリアといえばアンズ茸。キノコソースだけをパスタにかけてもおいしそう!

 前菜からスープ、メインにいたるまですべて同じ食材で、なんていう楽しみ方をする人も多く、とにかく旬のものを積極的に食べるのです。取材した時はちょうどEierschwammel(アイアーシュヴァンメル=アンズ茸)のシーズンで、キノコのサラダにキノコのポタージュ、そしてステーキにもキノコソース……とキノコ好きにはたまらないほど、キノコ料理が目白押しでした。実はこの少し前に旬だったホワイトアスパラガスも、ひょっとしたらまだ扱っているお店があるかも、とひそかに期待していたのですが、どのお店でも「もう手に入らないので」とのお返事。少しがっかりしつつも、旬のキノコのおいしさににんまりしてしまうのでした。

自然の力がおいしいワインをつくる

 新鮮な旬の食材をいただけることもさることながら、オーストリアを旅していてとてもうれしいのは、どの食材についてもいちいち食の安全性を考える必要がないこと。ここでもやはり小さな国であることがその理由となっています。

 広大な農地でたくさんの人口を養わなければならない畑と違い、オーストリアの畑では遺伝子組み換えで大量の収穫を求めることも、また効率よく除草したりする必要もないので枯葉剤や殺虫剤を大量使用することがありません。農薬の使用量などの規制が厳しいこともあり、オーストリア産の食材は残留農薬などのリスクが少ないといえます。

熟成室は11世紀から使われていたもの。エアコンなどなくても湿度、温度ともに最適に保たれている
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 特に自然派として知られるのが、ワイン。近年ではビオワインに転向するワイナリーが増えてきていますが、オーストリアではかなり前から自然農法によるワインづくりがさかんです。大量生産ではないため、多くが国内で消費されるといい、あまり海外で流通していませんが、近年ではその質の高さに注目が集まっています。

 代表的なワイナリーのひとつ、ニコライホフはローマ時代にはすでに記録が残っているほどの古い歴史あるワイナリーで、現在の当主クリスティーネ・サースさんとそのご主人が50年以上も前に運営を引き継いでからは自然農法によるワインづくりがされています。

 「ワイナリーを始めたころはとにかく貧乏で。肥料や農薬を買うお金もなくて、自然の力でなんとかできないかと研究と試行錯誤を重ねたのよ」とクリスティーネさん。

ワインの質はその土から、という人もいるほど。雑草が土壌改良に意外な役割を果たす
ワインの質はその土から、という人もいるほど。雑草が土壌改良に意外な役割を果たす

 たとえば、除草剤を使わずぶどうの近くにわざと雑草をはやすことで土中の微生物を増やしたり、土に牛の角を入れることで土質を変えたり。実際、ニコライホフのワイン樽にはミネラル成分が豊富なワインに見られる「酒石」という沈殿物が多く、土による恩恵を受けていることがわかります。化学物質ではなく、自然の力だけを利用した土壌改良に成功しているのです。

 昨年とうとう、ワイン界で最も影響力があるという評論家ロバート・パーカー氏が100点満点をつけたというワインもこのニコライホフから登場し、いよいよオーストリアのワインが世界に認められようとしています。

 土地に無理をさせずにつくる自然派ワインを、地産の旬の食材とともに。こんな贅沢な食卓は、オーストリアでは昔々からふつうにあったもの。近年の世界的なエコブームでにわかに始まったのではなく、自然に忠実に生きようとするオーストリア人気質によるものに違いありません。これからのエコライフ、オーストリアから学ぶことも多そうです。

ニコライホフはレストランも併設。巨木の下で木洩れ日を楽しみつつの食事はもちろんワインとともに
ニコライホフはレストランも併設。巨木の下で木洩れ日を楽しみつつの食事はもちろんワインとともに