この夏、川崎市に住む小学5年生21人とその保護者が、身近な環境課題と毎日の自分の暮らしとのつながりを考えることで、「自分のライフスタイル」を見直し、未来の心豊かな暮らしを考えようという、新しい環境教育プログラム「食とくらしがつくる地球の未来 みんなでいっしょに考えよう ~ 夏休みチャレンジ~」(食とくらしのサステナブル・ライフスタイル研究会、川崎市主催)を体験しています。

このプログラムは、工場見学や実験・料理教室などといった“体験”と、参加した子どもたちと保護者、企業の社員や川崎市の職員がみんなでいっしょに考える“グループワーク”、そして学んだことを家族と実際に取り組んでみる“実行”からなっています。

その第1回が、7月23日に「かわさきエコ暮らし未来館」で実施されました。4回にわたって実施されるプログラムを通して、参加した子どもたちがどう変わっていくのか、追いかけていきます。(取材・文=松田慶子、写真=北山宏一)

 「夏休みチャレンジ」は、味の素や花王、環境・CSRコンサルティングのイースクエアが2011年に設立した「食とくらしのサステナブル・ライフスタイル研究会」と環境先進都市である川崎市の主催による、体験型環境教育プログラムです。運営に当たるのは、NPO法人ビーグッドカフェ。川崎市と企業、NPO、さらに家庭が連携するユニークな取り組みです。

 このプログラムを通じて、未来を担う子どもたちが、毎日の暮らしと環境課題のつながりに気づき、その解決のために、自分のライフスタイルを見直し、未来の心豊かな暮らしに向けて行動する力をつけてもらうことを目的としています。ごみ処理施設や洗剤、食品の工場見学のほか、環境についてのお話やカードゲーム、さらに環境日記をつけるといった、多彩な活動が盛り込まれています。

かわさきエコ暮らし未来館のエントランスにある街の航空写真の中から、環境に関わる施設の位置を確認します
かわさきエコ暮らし未来館のエントランスにある街の航空写真の中から、環境に関わる施設の位置を確認します

 「夏休みチャレンジ」に参加したのは、川崎市内の小学5年生21人とそのママやパパたち。暮らしを見直すには、家庭の協力が欠かせないため、4回のプログラムには各回、保護者も参加します。「環境問題に興味がある」「工場見学をしたい」など、子どもたちの参加理由はさまざまです。しかも、全員学校が違っているため、ほぼ全員が初対面同士。キックオフデーとなった7月23日は、会場の「かわさきエコ暮らし未来館」に、やや緊張した面持ちで集合しました。

 「かわさきエコ暮らし未来館」は、川崎市最大のごみ処理施設である、浮島処理センターの敷地内にある環境学習施設です。まず自己紹介として、子どもたち一人ひとりが「川崎の好きなところ」を発表。「お店が多くて便利」「交通の便がよい」といった声に加え、「公園が多い」、「市内を流れる多摩川が好き」といった声が聞かれました。

 その後、4グループに分かれ、エントランスに広がる川崎市の航空写真から、下水処理場やごみ処理施設等を探すゲームに挑戦! 遊びを通して、南北に長い川崎市の地形や多彩な顔をもつ地域の特徴やライフライン施設の位置を掴(つか)んでいきました。

自分が住む町の環境の歴史に関心

 少し緊張がほぐれたところで研修室に移動し、環境に関するお話を聞きました。

 最初は川崎市環境局地球環境推進室の井田淳さんのお話です。

自分たちが生まれる前の川崎市の汚染の様子や、水や空気をきれいにする取り組みについて、メモを取る子どもたち
自分たちが生まれる前の川崎市の汚染の様子や、水や空気をきれいにする取り組みについて、メモを取る子どもたち

 「川崎市のロゴマークが変わったのを知っていますか?このマークは、多様性や自由をあらわしていて、川崎の未来への可能性を表現しているんですよ。今、川崎市にたくさんの企業があるのは、昔、川崎市が企業を誘致した歴史があったから。政令指定都市の中で一番IT産業が盛んで、研究所の多い街なんですよ」と説明する一方で、川崎市の過去の状況にも触れながら、子どもたちに語りかけました。

 「昔は、工場や車が排出する汚れた空気が、ぜんそくなどの病気を引き起こすこともありました。工場や家庭からでる排水が多摩川を汚し、1970年代ごろの多摩川にはごみが浮き、水面が泡立っているような状態だったんですよ。(現在の空や多摩川の写真と比較しながら)企業、行政、市民の努力によって、現在はずいぶんと改善されましたね。この4日間を通じて、企業や市やみなさんがどんなことに取り組んだらいいのか、いっしょに学びましょうね」

 川崎市が全国に先駆けて行った取り組みのひとつが「ごみ」問題です。実は人口が増えている川崎市ですが、ごみの量は、ここ数年、減っていることを紹介してくれました。

 「昔は週6回収集していた普通ごみですが、今は資源ごみの分別が進み、週2回に。社会のルールと市民の分別に対する意識の向上が、ごみの減量化につながったのです。また、「現在はよく見るロードパッカー車というごみ収集車。実は川崎市は企業と技術開発を共同で行い、ロードパッカー車を全国に先駆けて導入したり、ごみ処理能力の高い処理場に、ごみを鉄道輸送したり、日本で初めて取り組んだことも多いんですよ」と、井田さん。川崎市が、環境関連の技術開発にも積極的に関わって来た歴史についても教えてくれました。

 大人にとっては、かつての川崎の公害は有名な話ですが、現在、5年生の子どもたちには、初めて見聞きする内容も多く、熱心にメモをとります。「昔の多摩川があんなに汚なかったって知らなかった」と、参加者の1人、かなちゃん。「いろいろな努力の結果、川がきれいになっていることがわかりました」と、トウくんも話します。子どもたちも、自分たちのまち川崎の、歴史の一面を知ったようです。

「温暖化で何が困る?」というエクベリ聡子さんの問いかけに、子どもたちからは「暑くなる」「雨がいっぱい降る」「海面が上昇する」などの答えが。学ぶ意欲いっぱいです
「温暖化で何が困る?」というエクベリ聡子さんの問いかけに、子どもたちからは「暑くなる」「雨がいっぱい降る」「海面が上昇する」などの答えが。学ぶ意欲いっぱいです

 続いてはイースクエアのコンサルタントである、エクベリ聡子さんから、地球規模の環境問題についてのお話です。まずは「2050年の天気予報」という動画を見ました。

 「この天気予報は、もしも今のままCO2を出し続けたらという仮定のお話です。

 また、今のままの暮らしをこのまま続けたら、2050年には地球が3つ必要になると言われています。でも地球は、1個しかありませんよね。この地球上で、72億人の人類と500万種の生き物が、共存しなくてはいけないのです」そう話すエクベリさんは、自身が、アフリカで撮ったという、キリン、ヒョウ、カバ、ゾウなどの野生動物の写真を示しながら、生態系の仕組みについて解説します。

 「植物を草食動物が食べ、それを肉食動物が食べ、やがて肉食動物が土にかえるという循環の中で、人間の出すごみには自然にかえらないものも多い。だから、人間がするべきことは、自然から獲りすぎないことと、自然にかえらないものを出し過ぎないこと。ごみを分別するという身近な行動が、世界の動物や植物を守ることにつながるのです」

 自分たちの暮らしと地球とがつながるというお話に、子どもたちは夢中で聞き入っていました。

仲間と考えるから、たくさんの気づきがある

 昼食と休憩をはさみ、午後はグループごとに机を囲んで、環境カードゲームにトライ。各グループの机の上に置かれた模造紙には、中心に「洗う」「食べる」というキーワードが書かれています。一方、子どもたちの手元には「コップ」「服」「車」など暮らしの中にあるモノから、「浄水場」「ダム」など、子どもの生活にはなじみが薄い施設の名称などが書かれた100枚のカードが用意されています。このカードを「洗う」「食べる」というキーワードとの関連が深いものから並べていき、暮らしと環境とのつながりを知ろうというゲームです。

カードゲームを通して「食べる」という行為が、食品の生産から、運送、廃棄までいろいろな事柄に関わっていることを再認識しました
カードゲームを通して「食べる」という行為が、食品の生産から、運送、廃棄までいろいろな事柄に関わっていることを再認識しました

 「『雨』と『ダム』はくっつけたほうがいいんじゃない?」などと、ワイワイ手を動かす子どもたち。カードのうち、CO2や排水、ごみを出すものには、そういったシールも貼っていきます。

 このゲームに正解はありません。毎日家庭で繰り返される「洗う」「食べる」という、身近な行動が、どんなモノに支えられているのか、環境にどんな影響を及ぼしているのか、つながりに気づいたら成功です。

 「みんなでカードを貼っていったら、トイレと食べ物がつながって驚きました」(こはるちゃん)

 「雨と山、海という水のつながりが、よくわかった」(こうすけくん)

 グループで作業するからこそ、たくさんのつながりに気づくことができ、さらに自分の意見を述べて、少し自信も芽生えたようです。

巨大なごみ処理施設に子どもも保護者も驚き

 ゲームの後は、川崎市内で収集される可燃ごみの半分が運び込まれるという浮島処理センターを見学します。職員の方々に案内してもらい、子どもと保護者に分かれて、ごみ処理施設を見て回りました。

「ごみピットがこんなに深いのはどうして?」「炉室で作業する人がマスクをしているのは?」いろいろな質問が飛び出しました。興味津々の証拠
「ごみピットがこんなに深いのはどうして?」「炉室で作業する人がマスクをしているのは?」いろいろな質問が飛び出しました。興味津々の証拠

 センターに運び込まれる可燃ごみは1日平均約600t。それを、最大6500t入るという巨大なごみピットに集め、大型のクレーンでつかみ上げ、焼却炉に投入します。クレーンは1回で6tのごみをつかみます。すべてが桁(けた)外れの大きさに、「うわ、でかい!」「ごみが多い!」と口を開けて見入る姿も。

 ごみは焼却炉で完全に燃やされ灰になります。灰は埋め立て地に運ばれ、炉から出た熱は発電に、施設で出た水は処理されて場内で再利用されます。

家から出たごみの中でも、ミックスペーパーなどは最終的には人の手で選別されます。現場を真剣に子どもたち
家から出たごみの中でも、ミックスペーパーなどは最終的には人の手で選別されます。現場を真剣に子どもたち

 続いて、隣の資源物の処理施設も見学しました。現在、川崎市は普通ごみ、空き缶・ペットボトル、空きびんなどに加え、プラスチック製容器包装やミックスペーパーなど、8つのカテゴリーに分けて、ごみを収集しています。浮島処理センターでは、このうちプラ容器やミックスペーパーについて、それぞれベルトコンベヤに載せて、手作業で不適物を取り除いた後に、圧縮してリサイクルに回します。ミックスペーパーの圧縮品1tで、トイレットペーパーが何と5万個も作られます。子どもたちは市内の小学校のトイレットペーパーにも使われていると聞いて、感心していました。

 「3R(リデュース、リユース、リサイクル)のことは習ったけれど、回収に出した紙がトイレットペーパーになるとは知らなかった」と、あきさちゃん。

 一方、ごみ処理の現場を見学した保護者チームも「ニオイはないんですね」、「最後は人の手で選別するんですね」と興味深そうに施設内を進みます。

次回は8月9日。子どもたちは家庭に帰り、自分たちの暮らしの中での環境の取り組みを日記に書いて、次回報告する予定です
次回は8月9日。子どもたちは家庭に帰り、自分たちの暮らしの中での環境の取り組みを日記に書いて、次回報告する予定です

 これまで、ごみを分別して出してはいても、その後の処理法までは知らなかったママやパパたちは、モノたちの行く末を知り、子どもに負けず新鮮な驚きを感じた様子。「改めて分別を徹底したいです」「焼却灰の埋め立てにも限界があると聞いて、ごみを減らさなくてはと思いました」という声も聞かれました。

 最後に、1日を振り返って初回のプログラムは終了。子どもたちには、次回まで、毎日、環境日記をつけるという宿題も出されました。

 たくさんの気づきと発見を胸に、帰路に着いた参加者たち。第2回は、8月9日。花王の川崎工場で、モノづくりを通してのエコ活動を体験します。

7月23日の夏休みチャレンジの様子はこちらでも紹介されています。
http://begoodcafe.com/news/challenge2016

(2016年7月27日)