
成長するに従い、親のサポートから少しずつ卒業していく子どもたち。自分らしく自立して生きることを目指して、思春期の高校生を「ナナメの立場」から応援するNPO法人カタリバを取材しました。(文・工藤千秋)
やりたいことがわからない十代に、主体的に自分らしく生きる道を
自分らしさを大切に、自立した大人になってほしい――。
親はそんな願いで子どもの成長を見守っているものです。しかし、親のサポートを素直に受け入れていた子どもたちも、中学、高校に進むに従い、難しい時期がやってきます。
「今の中高生たちは、自分がやりたいことがよくわからないという子がとても多い。そんな子どもたちに、主体性を持って自分らしく生きる道を伝えていきたい」というのは、NPO法人カタリバの小田原瑞帆さんです。
カタリバとは、「未来は、自分たちの手で創り出せる」を合言葉に、高校生が生き抜く力を身に付けるのを応援するNPO法人。代表理事の今村久美さんが大学生だった当時の2001年、共同創業者の三箇山優花さんと立ち上げたものです。「育った環境や受けた教育によって、子どもたちの描くイメージが違うこと」に疑問抱き、活動がスタートしました。
憧れのナナメの存在が、高校生のやる気を刺激

まず手がけたのは、高校への出張授業「カタリ場」と呼ばれる「動機付けキャリア学習プログラム」です。大学生などのボランティアが高校へ出向き、高校生と一緒に語り合うことで、「将来を考えるきっかけ」をつくります。
「誰だって、小さい頃は大きくなったらなんにでもなれると思っていたはず。それが、高校生くらいになると、 "自分には能力がない、ダメな人間だ" と、とても自己評価が低くなってしまうのです。もう一度自己肯定感を取り戻して、もっと自分の手で未来を切り開いてもらえたらと考えています」というのは、カタリバの和氣英一郎さんです。
いつの間にか、やる気や主体性を失って、未来への希望を失いがちな子どもたち。その原因はさまざまです。親との縦の関係が難しくなったり、友だちとの横のつながりを重視するあまり個性が発揮しにくくなったり。
「そんな中で、自分が素直に出せるのが、少し年上の大人という "ナナメの関係" 。大学生はまさにそんな存在なのです。対話を通して、 "こんな大人になりたい" という憧れの存在や、悩みを相談できる相手を見つけることができます」(小田原さん)
プログラムでは、座談会で今の自分を見つめ直したり、先輩たちがどのように進路に向き合ったかという実体験を聞いたりします。そこから、これからの未来をどう考えていくか、もう一度自分と向き合って考える、という内容です。
これまでに、15年間で22万人の高校生たちがカタリ場のプログラムを受講しました。
被災地の子どもたちが安心して過ごせるコラボ・スクール

カタリバは、被災地で「コラボ・スクール」という放課後学校も運営しています。
2011年7月に宮城県女川町に女川向学館を、12月には岩手県大槌町に大槌臨学舎を設立。被災した小中高校生の学習指導と心のケアを行っています。ここは、子どもたちが安心して過ごせる居場所であり、地域全体が子どもたちをサポートする機会にもなっています。
「コラボ・スクールをきっかけに、2013年から高校生が地域や身の回りにある課題の解決を目指してプロジェクトを立ち上げる『マイプロジェクト』もスタート。自分が「社会にこうあってほしい」と考えるテーマを見つけて、その実現に向け活動します。マイプロによって、社会に希望を持ったり、自分への自信が養えます」と和氣さん。
同世代の生き生きとした姿が刺激に


3月26日には、「マイプロジェクトアワード2015」を開催。115組のエントリーから、全国4カ所の地区大会を勝ち進んだ36組の学校、グループや個人が、それぞれのマイプロジェクトを発表しました。
個人グループ部門1位となったのは、「震災から学び、自分の町で出来ること(3.11つなぐっぺし)」(神奈川)。東日本大震災の風化防止と情報発信を目的に、イベントなどを開催。それによって自分の街の防災・減災について考えることを根づかせようというプロジェクトです。
2位の「そうだ!ひなせ」(岡山)は、メンバーの祖父母が住む岡山県にある日生(ひなせ)という港町を多くの人に知ってもらうべく活動。小中高校生が中心となって、地域特産の「あまベジ」という野菜を栽培し、地域活性化や世代間交流につなげようとしています。
このようなマイプロを自分で見つけて立ち上げるのは、高校生にとってハードルが高いことのような気がしますが、
「マイプロジェクトアワードに向けて、プロジェクトの構想を練る『スタートアップ合宿』を東京、東北、九州などで行ったり、メンターがインターネットを通じてオンラインでサポート。学びの実現を後押ししています」と和氣さんは語ります。
アワードに参加することで、同世代の高校生の生き生きとした姿に刺激を受ける子も多いとか。
「昨年、アワードを見に来たときにそのパワーに圧倒されて、今年は自分もやってみたい!と参加する子も少なくありません。グループはもちろん、ひとりでマイプロを立ち上げる子も。周りの人を巻き込みながら、プロジェクトを実現していく中で、かけがえのない多くことを学んだり、体験しています」(和氣さん)
思春期の子どもを持つ親にとっても心強い存在に

さらに、2015年から東京都文京区で運営を開始したのは「文京区青年プラザ b-lab」(文京区教育センター内)です。
「b-labは中高生を日常的にサポートし、彼らの居場所づくりをすることが目的。学習支援、音楽、スポーツなどさまざまなアクティビティを通して、仲間を作り、やりたいことを見つける場にしていきたいですね」と小田原さんは語ります。
b-labには大学生などのボランティアスタッフが常駐。スタジオでバンド練習をしたり、キッチンスタジオを使ったり、スポーツを楽しんだり…。もちろん、マイプロに取り組む子たちもいます。
「そうやって、自分のやりたいことを見つけていく中で、子どもたちは主体的に生きる楽しさを学んでいくもの。b-labは文京区の委託事業のため、基本は文京区在住、在学の中高生が対象ですが、一般にオープンするイベントも随時開催しています」(小田原さん)。
周囲との関係づくりが大きな影響を及ぼす十代。親でもない、友だちでもない。そんなナナメの関係は、ともすれば自分の未来への自信を失いがちな子どもを力強く支えてくれるかもしれません。
思春期になった子どもたちにカタリバのような居場所があることは、親にとっても心強いことといえるのではないでしょうか。