自然の心地良い空気に包まれるKIRARIの店内。ワクワクする発見もあり、また、来よう!そう思わせてくれるお店です
自然の心地良い空気に包まれるKIRARIの店内。ワクワクする発見もあり、また、来よう!そう思わせてくれるお店です

空を舞う海鳥。海水に姿を現すイルカとアシカ。夕焼け時になると、真っ赤に染まった空が一面に広がり、道行く人々を包み込む隠れ家的ビーチタウン、レドンドビーチ。この海の向こうにある故郷へ。故郷、福島を想う一人のパティシエの姿がここにありました。(取材・文=白井朝美、写真=HALE DAVIS)

ディスプレイに並ぶチーズケーキやチョコレートケーキ。どれも絶品です
ディスプレイに並ぶチーズケーキやチョコレートケーキ。どれも絶品です

 ビーチ沿いには、お洒落なお店やカフェが立ち並び、ファーマーズマーケットは地元を大切にする住民たちで賑わいます。ゆったりと静かな時間が流れていくビーチシティ。そんなレドンドビーチから数ブロックほど歩いた場所にあるグルテンフリー専門ベーカリー&スイーツのお店 "KIRARI WEST" の厨房は、朝から大忙しです。

 早朝7時にオープンする同店のディスプレイには、焼きあがったばかりのパンやペーストリーが並びます。そのパンを目当てに多くの地元住民らが早朝から足を運び、KIRARI WESTは人気の店となっています。

グルテンが話題になっている理由

小麦粉と水でこねると生地に粘りがでて、出来上がりの生地にモチっとした食感が味わえますが、グルテンを含まないとモチっと感とシットリ感を作りだす事が難しいそうです。ベーカリーシェフと相談しながら、失敗と成功の繰り返し。現在は、その中でも一番、困難とされているクロワッサン作りに挑戦中
小麦粉と水でこねると生地に粘りがでて、出来上がりの生地にモチっとした食感が味わえますが、グルテンを含まないとモチっと感とシットリ感を作りだす事が難しいそうです。ベーカリーシェフと相談しながら、失敗と成功の繰り返し。現在は、その中でも一番、困難とされているクロワッサン作りに挑戦中

 グルテンとは、ライ麦、大麦、小麦などに含まれる穀物の胚乳から生成されるたんぱく質の一種で、パン、クッキー、ケーキ、ワッフル、ホットケーキ、ピザ生地、パスタ、シリアルなど小麦を使った食品に含まれています。

 グルテンが注目されるのは、健康に影響があると話題になってから。グルテンを摂取する事で湿疹、疲労、吐き気、消化不良、痛みなどの症状が起きるといわれているグルテン不忍症、小麦アレルギー、セリアック病などは、米国では133人に1人の割合で発症していると報告されています。しかし、そのほとんどは、未診断であったり、自分自身がセリアック病である事さえも気づく事なく、ただ原因不明の症状に悩まされていると思い込んでいる人々も多いのだそうです。

 最近では、グルテンを摂らない "グルテンフリー" の食生活が、セレブリティらが好むダイエット方法の一つとして知られるようになりました。健康なアメリカ人の29%がグルテンの摂取を避ける食事方法をとっているとも報告もされています。健康志向が高いカリフォル二アでのグルテンフリー食は、今や、トレンディーなヘルシー食ともなっているのです。

いつも家族でお店に来店するジョアナさん(左)、グルテンフリー・ヴィーガンスコーンを頬張るノラちゃん(中央)、イヌキさん(右)。「ここのベーカリー&スイーツ&珈琲はナンバーワンッ!」
いつも家族でお店に来店するジョアナさん(左)、グルテンフリー・ヴィーガンスコーンを頬張るノラちゃん(中央)、イヌキさん(右)。「ここのベーカリー&スイーツ&珈琲はナンバーワンッ!」

 このような背景から、スーパーに陳列するグルテンフリーの食材やデザートやスイーツは豊富さには目を見張るものがあるのですが、なかなか美味しいスイーツやデザートに出会えないのも事実。グルテンを含んだ食事は、アメリカの食卓には欠かせないどころか、子どもたちが大好きな食べものでもあるので、我が子が安全に、美味しく食れるグルテンフリー食を求めて奔走する家族も多くいます。その救世主ともなるKIRAI WESTベイクショップでは、グルテンフリーの子どもをもつ家族から絶大なる信頼と支持を受けており、今日も、家族で訪れる人々でお店は賑わっているのです。

映画の仕事からパティシエに

「もし、自分が故郷にできる事があるとしたら、自分の生き様をお店を通して見てもらい、こちらに住んでいても、福島のことを想っているということを感じてもらえたら嬉しいです」。KIRARI WEST BAKE SHOPのオーナー斉藤博靖さん。今後の目標は、ロサンゼルスに店舗を増やす事
「もし、自分が故郷にできる事があるとしたら、自分の生き様をお店を通して見てもらい、こちらに住んでいても、福島のことを想っているということを感じてもらえたら嬉しいです」。KIRARI WEST BAKE SHOPのオーナー斉藤博靖さん。今後の目標は、ロサンゼルスに店舗を増やす事

 福島出身の同店のオーナーでありパティシエを努める斉藤博康さんは、高校卒業後、デラウエア州に単身渡米。後にニューヨークに移転。当時は、映画やエンターテイメントの仕事に携わるためにレストランでアルバイトをして生計を立てながら、演技を学び、低予算映画のプロデュースをしていたといいます。

 しかし、2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルとワシントンD.C.のペンタゴン(アメリカ国防省)へ2機の航空機が突入した米国同時多発テロ事件が発生。後に、斉藤さんは、ニューヨークでの生活に終止符を打ち、カリフォル二ア州ロサンゼルスへの移転を決意しました。

 ロサンゼルスでは、ナチュラルヘルシーフードの先駆け店でもあるレストランHUGOのマネージャーとして、新たな道を歩み始めた斉藤さん。同店のお肉やお魚、ベジタリアン、ヴィーガン、グルテンフリーなど、それぞれの食生活にあったお料理と選択。誰もが楽しめるようにと生み出された豊富なメニューを提供する同店のコンセプトに感銘して、食の世界へと精心していくことになります。

 「それまでは、グルテンフリーという食材や食生活があるとい事すら知らなかったんですよ」と話す斉藤さん。当時は、自身がパティシエを努め、ベーカリーカフェをオープンする事になるとは予想していなかったそう。

東日本大震災で改めて故郷・福島を思った

店内に飾られた福島の写真。来店するお客様からは、福島を気づかう言葉も
店内に飾られた福島の写真。来店するお客様からは、福島を気づかう言葉も

 転機は2011年、3月11日、東日本大震災の直後のことでした。震災後、福島で暮らす家族の行方が分からず、連絡もつかない、情報すら入ってこない状況の中、最悪のシナリオが脳裏を横切ったと話す斉藤さん。

 幸いにも家族は全員、無事だとの知らせが届きましたが、当たり前のようにいた家族を失ったかもしれないという不安、たくさんの思い出が残る故郷・福島に帰る事すらできなくなるかもしれない、という息が詰まるような思いを経験し、改めて家族の存在の大きさと故郷の意味の深さに気づき、自分にとって何が一番、大切なのかがはっきりと分かったといいます。

斉藤さんのお父上が考えたという樹楽里(キラリ)の由来は、キラキラの響き。樹林の樹、楽しいの楽、故郷の里。福島の樹楽里店は、自然豊かな場所にあるといいます
斉藤さんのお父上が考えたという樹楽里(キラリ)の由来は、キラキラの響き。樹林の樹、楽しいの楽、故郷の里。福島の樹楽里店は、自然豊かな場所にあるといいます

 震災の半年前、斉藤さんの家族は米粉を使ったバウムクーヘンの専門店 "樹楽里" (キラリ)を立ち上げました。けれど震災の影響で利益は3割も落ち込んだといいます。それでも、福島産のお米を使い、良質な商品を提供する事にこだわり続ける斉藤さんの父と兄。二人の姿に斉藤さんは、自分も何かしたい。自分にも何かできる事があるはずだと福島に戻り、朝から晩までパンとお菓子作りの修行を受けてカリフォル二アに再び戻りました。そして2015年、5月、KIRARI WESTBAKE SHOPをオープンさせるに至ったのです。

福島の真心を伝えたい

バリスタのブライアンさんが描くチョークアートメニューは、とてもお洒落
バリスタのブライアンさんが描くチョークアートメニューは、とてもお洒落

 同店のコンセプトは、福島で大切にしている地元のマゴコロ(SINCERELY)をスタッフ全員で分かち合い、米国で伝えていく事。そして、樹楽里のコンセプトでもあり日本の食文化の中心でもある米粉と地元生産の食材を使い、クオリティー高い商品を提供する事。また、お米ベースの食材を使い、グルテンフリーの食生活を支える事だといいます。

 同店では厳選された素材のみを使用しており、粉類は、NO-GMO(遺伝子組み換えなし)。ケーキボックスも再利用可能なリサイクルボックスを使用しています。また、いわき市から明治時代に米国に移住し、米国ではライスキングと呼ばれた故国府田敬三郎さんの親族が営んでいるコウダ農園から最高質のお米を仕入れるなどして、人と食、社会との繋がりも大切にしているのです。

 「正直、今でも、トンネルの中で試行錯誤している真っ最中ですね」と、同店のオープンにあたり、数々の試練を乗り越えてきた斉藤さん。現在は、スタッフにも恵まれ、満面の笑顔で美味しいと言ってくれるお客さまや子どもたちの顔を見ることが楽しみの一つ、そして何よりも日々、家族と故郷と繋がっているという実感が感じられる事が嬉しいと話します。

制服の肩の刺繍は、家族との繋がり。故郷への想い。FUKUSHIMA JAPAN
制服の肩の刺繍は、家族との繋がり。故郷への想い。FUKUSHIMA JAPAN

 斉藤さんのモットーは、BALANCE(バランス)。多忙な社会での暮らしで見失いがちなバランスですが、故郷、福島は今の自分を受けとめ、生き方のバランスを取り戻してくれるかけがえのない場所。いつも暖かく迎え入れてくれる家族や友人が暮らす場所であるといいます。

 福島は、今の自分を育ててくれた故郷の地。どんな苦難だって立ち向かって見せる。成功させて見せる。故郷への想いを胸に託して前進する斉藤さんのユニフォームの肩には "FUKUSHIMA JAPAN" (フクシマ ジャパン)の文字が刻み込まれています。

マフィン(左)と抹茶、チョコレート、黒ゴマ、ラズベリーのダックワーズ(中)、グルテンフリーヴィーガンパフェ(右)。<br /> これが、グルテンフリー?と驚く食感とテイスト
マフィン(左)と抹茶、チョコレート、黒ゴマ、ラズベリーのダックワーズ(中)、グルテンフリーヴィーガンパフェ(右)。
これが、グルテンフリー?と驚く食感とテイスト
白井朝美
白井朝美
アメリカは、ニューヨークとカリフォルニアで暮らす。金融機関勤務、ダンサー、ハリウッドパパラッチ隊、ランジェリー・スタイリスト。ペットスタイリスト&ウエルネスアドバイザーとして従事。現在は、フリーランス・ライター&コーディネーター。朝活ラン、ダンス、ヨガとネコと相棒くんと自由を謳歌する自由人。
LOVE WINS! LOVE PINK(ALECIA MOORE)♡ ♡ ♡
ラブピースクラブで朝吠えコラムを発信中~♪
http://www.lovepiececlub.com/lifestyle/california/

(2016年3月15日)