先日、2013年度に児童虐待で死亡した子どもが69名、という厚労省の発表がありました。

 2007年度の142名、2012年度の90名に比べると減少しているとはいえ、心中事例が33名、心中を除く死亡事例36名のうち0か月児が7名(17.2%)、0歳時が16名(44%)と、出産後1年以内の死亡が多いことが問題視されています。

 また、手をかけるのは4割強が母親ですが、その母親、あるいは虐待する親が凶悪犯であったりメンタリティに問題があったりするわけではなく、自身も児童虐待の被害者であり、傷を負った人が多いということが、多くの調査からわかっています。
(参考:子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(平成26年9月、厚生労働省))

子育てに困難を抱えて自殺する母親も

 皆さんの中には、「いくらなんでもわが子に手をかけるとは・・・。それも、殺してしまうなんて」と思われた方もいるかもしれません。その通り、実は、子育てに悩む母親の中には、わが子を殺すのではなく自分が命を絶ってしまう方の方が多く、昨年一年間に日本で自殺した2万5,427人のうち、子育てに困難を抱え自殺する女性が425名(20~30歳代、うち主婦は351名)もいました。

 これは「平成27年版自殺対策白書(平成27年、内閣府)」で明らかになっています。

 警察庁「自殺統計」より内閣府が作成した統計資料では、平成26年の女性無職者(20歳代 3,225名のうち2.9%(94名、第10位)、30歳代5,431名のうち6.1%(331名、第4位))、主婦の自殺では20歳代405名のうち16.8%(68名、第3位)、30歳代1,812名のうち15.7%(283名、第2位)が「子育ての悩み」を自殺の原因としており
(資料:http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/whitepaper/w-2015/pdf/honbun/
pdf/1-2-3-1.pdf

 子育てに困難を抱えていても子どもには手を出さない代わりに自分の命を絶ってしまう母親が相当数いるようです。

母親にも助けが必要

 児童虐待死も、心中も、子どもの命を奪うものは、もちろん撲滅していかなければいけませんが、子育てに悩み、子どもではなく自らの命を絶ってしまう母親を助けたい、児童虐待だけでなく、母親のほうが虐げられたり、孤立したり、限界を感じたりする状況に置かれているのであれば、そちらの方をもっと何とかしたい、と、この数字を見て強く思いました。

 私自身、子育てに困難を感じたり、上手くいかなくて困ったり、子どもとの約束を守れなくて罪悪感を感じたりすることが、今でもたびたびあります。反抗期を迎えた子どもが、わざとつっけんどんな返事をしたり、知らんぷりをしたり、部屋の鍵を閉めて閉じこもってしまったり。同じ時にほかの子が駄々をこねて怒ったり、自分の希望が通らないからと言ってひっくり返って暴れて足で蹴ってきたり・・・機嫌の悪い子どもへの対応が重なると、どうしても子どもをかわいいと思う心の余裕がなくなります。

 海外で暮らし、帰国した後から、私は、児童虐待と同様、“母親虐待”とでもいえるような状況が日本にあるのではないかと思うようになりました。私は幸い夫と仲良く助け合いながら子育てをしていますが、それでも、母親が子どもたちの怒りやイライラのはけ口になったり、滅私奉公で年中無休の子育てをしている気持ちになったりすると、「愛されている」「感謝されている」と感じられない時もあります。

 見返りを求めて育児をしているわけではなく、自分の仕事や地域貢献ボランティアで自分のやりたいことにチャレンジしているから、幸せな境遇だ、と思います。「子どもたちが駄々をこねるのは母親に甘えているからよ」「外ではいつもいい子にしているから、くつろげる家の中だからこそ、わがままに振舞いたくなるのよ」「子供たちに手がかかるのはいっときのことよ」という先輩たちのお言葉も拝聴し、自分を納得させようとしてきました。しかし、今回のように、「身体的疲労」と「精神的疲労」と二種類の疲労の両方がどっと押し寄せたような感じで、辛くなってしまう経験を重ねると、子ども同様、母親も十分に愛される必要があるのでは、と強く思いました。

 その気持ちは、このブログを始めた頃から変わっておらず、最初から一貫して「母親がハッピーなら子供もハッピー」と、母親の健康と幸せを強く願いながら、このブログを続けています。ただでさえ「母親の子育て責任」を感じずにはいられない日本の環境で、虐待をしてしまう母親が「私は普通ではない」「誰にも言えない」と孤立してしまう気持ち、そして、その母親こそ愛情を注がれ、満たされ、誰かに見守られていることの必要性を強く感じる毎日です。

「母親は弓、子どもは矢」

 子どもにとって母親がナンバーワンなのは当たり前だけれど、オンリーワンで孤軍奮闘して育てなくてもいい。

 以前、外国で老婦人に「私の子育てはいつも試行錯誤で、上手くいかない自分に罪悪感を抱いてしまう」と打ち明けたら、その方は、「オー、ノー!」と両手をあげて、海外の詩(注)を教えてくれました。

「あなたは弓であり、あなたの子どもたちが生きた矢として放たれる弓なのだ」という部分を引用しながら、「あなたは、子どもを産んだ。それだけでいいのよ、素晴らしい存在なのよ」、とおっしゃった、その方のお顔が今でも忘れられません。

(注)「あなたの子どもは」カーリル・ギブラン(Kahlil Gibran)(1883---1931):レバノン生まれのアメリカ人詩人。著作に『予言者』(The Prohet)など。