子育ては思い通りにいかないことばかり、それでもいいじゃない――。大人気絵本作家のヨシタケシンスケさんは、そう語ります。この連載では、作品に込めた思いや、自身の子ども時代、二人の息子の子育てなどについて、自由に語っていただきます。肩の力を抜いて子育てを楽しむための、ヨシタケ流アドバイスも満載。第一回は、本人と絵本との関わりについてです。

「子どもの頃の自分」に向けて作品を作っている

 2013年に絵本作家としてデビューして以来、コツコツと作品を描いてきました。創作につながる発想のきっかけには、自分が子育てを通じて体験している日常風景がよくあります。

 もっと言えば、僕はいつも「子どもの頃の自分」に向けて作品を描き続けているところがありますね。子どもの頃に好きだったこと、見たかったこと、知りたかったことの答えを描くことに、いつも立ち返って絵本づくりをしています。

 とはいえ、一人よがりになってしまっては商品になりません。だから、息子たちを観察しながら「教えていないのにやっていること」かつ「昔の自分もやっていたこと」が見つかったら、それはきっと世界中の子どもたちが皆通る道なのだと確信して、人前に出せるテーマの候補にしています。

 例えば、昨年11月に出した『わたしのわごむはわたさない』(PHP研究所)という絵本。この作品を構想したきっかけも、僕と息子の間に実際に起きた出来事。とてもささやかな、たわいもないやりとりでした。

 次男が4~5歳の頃、捨てるつもりで集めておいた細々としたものの中からパッと輪ゴムを見つけてきて、「これちょうだい」と言ってきたんですね。何ともなしに「別にいいよ」と答えたら、「ワーイ! やったぁ!」ってすっごい喜んだんですよ。

 その反応が面白くて可愛いな、と思えると同時に、輪ゴム1個でここまで喜べる理由はなんだろう? と考えるきっかけが生まれたんです。で、気づいたのが、これは「所有権」を獲得した喜びなんだなと。

『わたしのわごむはわたさない』より(PHP研究所提供)
『わたしのわごむはわたさない』より(PHP研究所提供)