大人が伝えたいことを子どもに「翻訳」する

 もう一つ、絵本が果たせる役割として僕が考えているのは、「大人の世界と子どもの世界をつなぐこと」。

 僕が子どもの頃、大人から言われて一番嫌だったのが「お前も大人になったらわかる」という言葉だったんです。「こっちは今知りたいのに、どうすりゃいいの?」とイラッとしていました。

 大人になった今、僕はその言葉をできるだけ使いたくない。でも、大人になってやっと理解できたこともたくさんある。だから、自分で作る絵本ではなんとか工夫して「大人である僕が言いたいのは、今の君の世界で言うところのこういうことなんだ」と翻訳する作業をやっているわけです。

絵本作家のヨシタケシンスケさん
絵本作家のヨシタケシンスケさん

 本当は大人が全員、丁寧な伝え方をできればいいんですけれど、仕事や家事やいろいろなことで忙しくて毎回は無理ですよね。だから、その翻訳代行を丁寧にして差し出すのが作家の仕事だと思うんですよ。

 僕自身が自分の子どもたちにどんな絵本を読んでいるのか? というのもよく聞かれる質問です。

 息子たちが小学校に上がる前は、たまに読み聞かせをしていました。でも、子どもが「これ読んで」と持ってくる本と、こっちが読んであげたい本がいつも見事に違う(笑)。僕の場合は、バンバン断っていましたね。「その話、長いんだよなー」とか「お父さん、それあんまり好きじゃないから読みたくない」とか(笑)。大人だって気分が乗らないときはあるし、好き嫌いはあるということを伝えるほうが、僕はいいと思っているので。

 ちなみに、僕の描いた作品については彼らも「お父さんが描いた絵本」と認識はしていますが、特別にひいきをすることもなく、いい意味で他の本と平等にうちの本棚に並んでいますよ。

取材・文/宮本恵理子 写真/小野さやか