大人気絵本作家のヨシタケシンスケさん。作品に登場するママたちの表情を見ると、意外にも「笑っていない」顔が多いことに気づきます。「キラキラした笑顔のママより、髪クチャクチャのママのほうが実は誰かを癒やしているかも」と語るヨシタケさんに、「幸せ」についての考え方を聞きました。

「キラキラできない私」にへこむという声

 僕の絵本を読んでくださった方々、特に女性から言われる感想の1つに、「登場するお母さんがあまり笑っていないのがいいですね」というものがあります。

 確かに、そうなんです。昨年発売した『わたしのわごむはわたさない』(PHP研究所)をめくっていただいても分かると思いますが、僕の作品に登場するお母さんは、たいていムッとしていたり、ちょっと面倒くさがっていたり、ニコニコした表情はほとんど出てきません。

『わたしのわごむはわたさない』より(PHP研究所提供)
『わたしのわごむはわたさない』より(PHP研究所提供)

 なぜ笑顔が出てこないかというと、これは僕なりのリアルな表現なんです。実際、日常の忙しさの中では「ママ、これもらっていいー?」「はいはい」みたいな素っ気ないやりとりがリアルだと思いますし、子育てをしている中で面白いことなんて常には起きないじゃないですか(笑)。

 でも、だからといって子どもといる日常が不幸かというと、決してそうじゃないんです。ニッコリ笑いかけてはいないけれど、子どもを嫌いではなさそう。子どもだって、無言で黙々と遊びながら心から楽しんでいる時はあるし、ブスッとした顔をしながら親を信頼している時もあるはず。日常の世界は非常に微妙な表情で成り立っていると思うんです。

 僕は作家として、「笑顔を描かなくても幸せは表現できる」という領域に挑戦したいし、実世界がそうだと思っているんですよね。

 「あんまり笑っていないから、好きなんです」と言う読者の方に話を聞くと、「世の中で見るお母さん像は、キラキラした笑顔ばかりで、『私はそうなれない』とへこんじゃう」とおっしゃいます。

 僕自身も子育てで余裕のない時間を幾度となく経験してきたから、笑顔で傷つく気持ちも分かる。逆に言うと、「疲れ切った顔に救われる人」がいるんだなと。しかも、かえってそのほうが多くの人を癒やすのかもと気づいたんですよ。