親のスタンスが子の学習意欲に大きく影響

 教育における男女格差がなぜまだ是正できないのかというと、親世代が女の子の経済的自立に男の子と同じ程度の価値を見いだしていないことも一因ではないかと思います。

 例えば東大生に女性が少ない一因は、浪人して入学する学生に女性が少ないことがあります。子どもが女の子の場合、親が「浪人させてまで東大に行かなくてもいい」と考えていることを反映している可能性があります。また、学習過程において壁にぶつかった時、女の子は男の子と比べて、「無理して頑張らなくてもいい」というメッセージにさらされされやすいでしょう。とくに数学や物理の場合は、「女の子は数学が苦手だ」というステレオタイプが幅をきかし、努力することが奨励されない傾向があるのではないかと思います。

 つまり、親が子どもだった頃から広がっている空気が、いまだに女の子の教育や進学にも影響を与え、リーダー層の女性比率の少なさにつながっているというのが、今の日本だと思います。

 親が娘よりも息子の方に教育熱心なケースがあるのは、ステレオタイプを受け入れていることもあるでしょうし、実際の労働市場を反映している面もあると思います。女性の方がまだまだ賃金が低いというのが現状です。そのため、これまでの親としては自分の娘が「豊かな」人生を送るには稼ぎのいい夫を見つけるのが一番の近道で、女性自身が自立するかどうか、そのために教育を身につける必要があるかどうかについて、さほど重要視してこなかったという事情も潜んでいるでしょう。

 この負の連鎖はどこかで断ち切る必要があります。勉強でつまづいた時、男女関係なく克服していくことを教える必要がありますし、大学側も教育機会における性差別にもっと敏感になり、根絶する努力が必要です。痴漢やセクハラが女子学生の教育機会を制限しているという視点を、教育機関が持つことが必要だと思っています。

 すでに日本の人口は減少局面に入り、急速的に人が減っていきます。今の子どもたちが大人になった時に、女性が活躍できる余地は、今のお母さんたちの世代よりはるかに大きいでしょう。さらに、気候変動や環境問題により社会の価値観が持続可能性を重視する方向へと大きく転換しています。「ジェンダー平等は持続可能で公正な経済成長に不可欠である」と、G20の首脳宣言でもうたわれています。世界の企業は、速いスピードでジェンダー平等に取り組んでいますが、そうしないと人材や投資が集まらないと思っているからです。日本企業もその方向で変化せざるを得ないのではないでしょうか。

 「女の子は政治や経済のことなんて考えなくてもいい」といったステレオタイプを子どもに当てはめず、可能性の芽を摘まないことが大切です。

取材/蓬莱明子(日経DUAL編集部) 構成/藤原達矢
写真/大山克明(三浦さん)、PIXTA(イメージ写真)



三浦まり(みうら・まり)
三浦まり(みうら・まり) 上智大学法学部教授。専門はジェンダーと政治、現代日本政治論。『日本の女性議員 どうすれば増えるのか』 (朝日選書)、『ジェンダー・クオータ― 世界の女性議員はなぜ増えたのか』(明石書店)、『私たちの声を議会へ 代表制民主主義の再生』(岩波書店)など関連の著書・共著書も多数。