支援者や識者などに「ひきこもり」を社会全体で受け止めるためのヒントを聞くこの連載。今回は、東京都内で発達障害のある人やひきこもりの人の居場所「Necco カフェ」を運営する金子磨矢子さんに聞きます。ひきこもりの人たちの中には、こだわりの強さや感覚過敏など発達上の特性を抱える人が少なくありません。金子さん自身も発達障害で、長い間「自分は出来の悪い子だ」という気持ちにさいなまれてきました。娘はアスペルガー症候群で、彼女の不登校や強迫症状に親として向き合い続けてもいます。そんな金子さんに、ひきこもりと発達障害の関係について聞きました。

子育てきっかけに自分の障害に気づく 生まれつきと分かって楽に

 金子さんが自分の障害に気づいたきっかけは、娘の子育てでした。赤ちゃんのころの娘は、起きている間中泣きどおし、眠ってもわずかな物音ですぐに起きてしまいます。幼稚園では、母親から離れてほかの園児たちと行動することができず、金子さんは3年間娘にずっと付き添わざるを得ませんでした。

 「『変だなあ』と思い続けていましたが、当時は発達障害への認知度も低く、医療機関を受診しようとは思いませんでした」

 金子さんは原因を知るため、本を読みあさりました。すると、ある本に書いてあった発達障害の特性が、娘ではなく自分にぴったり当てはまったのです。

 「不注意で忘れ物が多く、片付けられないので部屋はごちゃごちゃ。いつも待ち合わせに遅れるので友人から『30分さん』と呼ばれ、駅の改札に人を4時間待たせたこともあります。でも時間を守れないのが『悪いこと』だとすら気づきませんでした」

 母親は、そんな金子さんを「だらしがない」と責め、友人からいじめられたこともあります。何より金子さん自身が、自分を「出来の悪い子」と捉え、「努力が足りないから人に迷惑を掛けてしまう」と、責め続けていました。高校3年生のころから家を出られなくなり、その後数年間、家にひきこもりました。

 金子さんはADHD(注意欠如・多動症)があると分かってから「自分の性質は生まれつきなのだから仕方ない、と思えるようになり、楽になった」と振り返ります。一方、娘は小学2年ごろから学校にほとんど行けなくなり、一日中何度も入浴せずにはいられないなどの強迫症状も始まりました。

 娘を診察したある医師は「あなたの育て方が悪い」と、金子さんを長時間叱ったといいます。しかし金子さんは「発達障害は、親のせいでも本人のせいでもない。そもそも『普通』の発達が正しくて、娘の状態は『悪い』と決めつけるほうがおかしいのではないでしょうか」と、疑問を投げかけます。