第1子が誕生した小泉進次郎環境大臣。誕生後の3カ月間に2週間分の育休を取ると表明したことで、注目を集めています。現職の大臣が育休を取ることは、男性の育児参画や社会にどのような影響を与えるのでしょうか。そこで今回は、自著『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』で、男性が育児をすることがなぜ大切なのかをつづっている小島慶子さんと、児童虐待予防の活動などを通して、社会問題に取り組んでいる犬山紙子さんにコメントをもらいました。

育休を通して子どもたちに何ができるかを考え、取り組んでほしい

小島慶子さん

 現職の大臣が父親として育児のための時間を取るというのはやはりとても大きな一歩だと思います。期間は確かに短いですが、これまでの「男が、まして議員が育児のために仕事をおろそかにするなんてとんでもない」という風潮の中では、考えられなかったことです。

 上司が育休を取ると部下の取得率が大幅に上がることは知られています。大臣の育休は「男性が育児のために働き方を調整するのは普通のことだ」という空気を作り出し、男性の育休取得を進める企業が増えたり、議員や官僚の働き方全体を見直すきっかけにもなるかもしれません。

 企業の中の管理職層の人たちも「ふうん、今時は男の育休はアリなのか」と多少は思うでしょう。人数的にも多い年代なので、ちょっとの変化でも効果は大きいです。

 小泉さんに育休を取らせたくなかった人も多いでしょう。大臣でも男性が育児休業を取る時にぶつかる壁は同じです。「育休なんて言っているから国が沈むんだ」と声高に言ってやろうというモードが盛り上がる前に、「そんなのは時代遅れ。こっちが常識ですよ」という態度で子育て世代が頑張らないといけません

 小泉さんが自らブログで決断に至るまでの心境をつづったのもいいですね。出産後の女性には心身ともに大きな負荷がかかること、その時期にパートナーが一緒に育児をすることが重要であることを世の中に周知しました。周囲のアドバイスに素直に耳を傾けて学んでいることがうかがえます。

 男性が育児をすることは、なぜ重要なのか。

 それは子育てを通じて、わが子に関すること、つまり世の中のすべての出来事を自分事として考える視点を持てるからです。

 小泉さんは次世代に受け継ぐ環境について、一国の大臣として責任を負う立場。他の父親たちには下せない大きな決断を下せる権限を手にしているのですから、わが子を抱きながら「自分はこの子のために何ができるか」を考えてほしいです

 グレタ・トゥンベリさんに批判的な発言をしていた小泉さんですが、この育休を通じて「わが子のために」という視点でもう一度考えてほしい。世界中の子どもや若者たちの声に真剣に耳を貸し、日本の環境大臣として、温暖化ガス排出削減について真剣に取り組んでほしいですね。

犬山紙子さん

⼩泉さんの育休取得は、社会を変える良きトピックスだと思います。というのも、育休を取得したいのに、それを言い出すことすら阻まれる空気の会社がたくさんあるからです。

 三重県では、知事自身が2度育休を取るなどした結果、平成30年度の県庁知事部局の男性職員の育休取得率は36.7%となっています。上司が率先して育休を取ることがいかに大切かよく分かります。

 小泉さんが子育てと向き合うことで、自分事として見えてくることはたくさんあるはずです。今の日本の子育て施策は後手後手であると言わざるを得ません。待機児童はまだまだいますし、仕事を泣く泣く諦めている女性もたくさんいます。ワーママの中にはマミートラックという問題を抱えている人もいます。第三者の助けや金銭的余裕がないと追い詰められるような大変な状況が、子育てにはあります。そのしわよせは、ほとんど女性に来ている状況です。

 なぜこんなに後手後手になっているかというと、女性議員の比率の低さは言わずもがな、議員に子育てにちゃんと参加している人の割合があまりにも少ないからです。特に力を持つ議員にです。その結果、多くの議員にとって子育てが自分事でないんですよね。

 正直、たった2週間で全てが分かるとは思いませんが、それでも生まれたての子どもと向き合うことで、子育てが自分事になるので大切なことです。きっと「2週間ではとてもじゃないけど足りない」ということも理解されるのではないでしょうか。出産後の母体も2週間では元に戻りませんから。

 そして日本が抱える大きな問題、児童虐待にも大きく目が向いて欲しいと思っ ています。今年度の虐待防止予算は昨年度よりも100億円弱増えていますが、それでも諸外国に比べてあまりにも少ないです。小泉さんは現在、環境大臣ですが、今後様々なポストを経験されるとすれば、絶対必要な視点だと思います。

撮影/洞澤佐智子

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『仕事と子育てが大変すぎてリアルに泣いているママたちへ!』

(小島慶子著、1540円、日経BP刊)

 2人の子どもの母であり、オーストラリア・パースで暮らす4人家族の経済的な大黒柱でもある小島慶子さん。日本とパースを数週間おきに行き来する生活の中で感じた、夫婦や子ども、社会、働くことへの思いをつづったエッセー集です。

【「はじめに」から抜粋】

 親はついこの前まで親ではなかった素人です。だけど人間を一人育てるというとんでもない仕事を、ぶっつけ本番でやらねばならないのです。(・・・中略・・・)

 混んだ電車に飛び乗り、髪を振り乱して保育園に迎えに行き、ようやく帰宅してから食事入浴をこなし、寝かしつけでつい寝落ちして真夜中に目覚めたときの絶望感といったら。重い体を起こし、散らかった部屋を片付けて、保育園のノートを書かなくちゃならない。うんざりしながら、すやすや眠るわが子の寝顔に、もっと優しくしてあげたかったのにと胸が締めつけられて…。その繰り返しでした。

【主な内容】

Chapter1 夫婦の話 夫婦の在り方って?につくづく思うこと
・「崖っぷち共働き親」の罪悪感と幸福
・夫婦のセックスレスに、我々はみな興味津々
・夫たちよ、鎧を脱いで育児・夫婦を語ろう 他

Chapter2 仕事の話 大黒柱ワーママをしながら考えてきたこと
・「ワーク・ライフ・バランス大嫌い」の方へ
・働く母は、約束とドタキャンが怖い!
・社会に出て20年、思い描いたキャリアとは違う世界に出合った 他

Chapter3 子育ての話 子どもから教わったこと、子に伝えたいこと
・入園前の親御さん、ハグしてチューしよう!
・子ども抜き「私の幸せ」へ猪突猛進せよ
・安全神話なき世にあっても生き延びる子に 他

Chapter4 社会の話 パースで、日本で、飛行機で、社会について思うこと
・40過ぎてADHDと診断され自分を知った
・仕事育児の両立は「女性だけの問題」でなくなった
・最高にクリエイティブで濃密な「今」に幸あれ 他

大黒柱ワーママ対談
・小島慶子×犬山紙子 未来へつなぐ共働き&子育て

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小島慶子
東京大学大学院情報学環客員研究員
昭和女子大学現代ビジネス研究所特別研究員
NPO法人キッズドアアドバイザー

小島慶子 1972年オーストラリア生まれ。1995年学習院大学卒業後、TBS入社。アナウンサーとしてテレビ、ラジオに出演。1999年、第36回ギャラクシーDJパーソナリティ賞受賞。2010年に独立後は各メディア出演、講演、執筆など幅広く活動。2014年、オーストラリア・パースに教育移住。自身は日本で働きながら、夫と息子たちが暮らす豪州と行き来する生活。連載、著書多数。


犬山紙子
イラストエッセイスト
犬山紙子 1981年生まれ。物事の本質をとらえた歯切れの良い発言が共感を呼び、TVや雑誌、Webなどで活躍中。2014年8月にミュージシャンの劔樹人さんと結婚し、2017年1月に女児を出産。現在は劔さんが家事・育児をメーンで担当する共働き生活を送っている。志を同じくするタレントたちと児童虐待の根絶に向けた活動「♯こどものいのちはこどものもの」、社会的養護を必要とする子どもたちに支援を届けるプログラム「こどもギフト」にも取り組んでいる。