もし無理やり長靴を履かせていたら、子どものその日の学びは台なしになっていた
菅原さん:私が代表を務めるNPO法人ハートフルコミュニケーションの受講生で、3歳の娘さんがいる若いお母さんの話です。その娘さんは、どこへ行くにもサンダルを履きたがる子で、ある雨の日、スーパーに出かける際に「今日は雨で足が冷えるから長靴を履こうね」とお母さんが提案しても、頑として聞きませんでした。そこで、サンダルを履かせたまま外出したのですが、案の定、子どもは寒そうにしている。でもそれについて何も言わないから、お母さんもその話には触れずにいました。
「寒い」と言わなかったのは、そのお子さんの意地だったのでしょうね。お母さんは「サンダルだと寒いよ」と教えてくれたのに聞き入れず、サンダルを選んだのは自分自身だったのですから。でも、帰宅してサンダルを脱いだ瞬間、とうとう子どもがポツリと言いました。「足が冷たい」と。お母さんは「そうなの?」とだけ言って、温かいタオルを持ってきて、やさしく足を拭いてあげました。すると、その子は、次から雨の日には必ず、自分から長靴を履くようになったそうです。
お母さんが、もし無理やり長靴を履かせたり、「ほら、ママが言った通り寒いでしょ?」などと責め立てたりしていたら、その日のその子の「学び」は台なしになっていました。そうせず、ただ黙って見守っていたお母さんの対応はすばらしいと思います。
本庄:「ほら言った通りでしょう」って、私なら絶対に言ってしまいます。いや、これまで何度も言ってきました……。そして、私ならこっそり長靴を持っていき、途中で履き替えさせていたかもしれません。
菅原さん:それは、過保護かもしれませんね。学びは本人の中で完結させないといけません。親が、何でも子ども自身に決めさせ、決めたことへの責任もしっかりと取らせて、決して批判しないという姿勢を貫けば、子どもは一人で、いろいろなことを学ぶようになります。子どもの人生の主導権を握るべきは、親ではなく、子ども自身なのです。
(第5回に続く)
取材・文/本庄葉子 イメージ写真/PIXTA
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ライター・翻訳家
NPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事