最近、「教育虐待」の問題が広く知られるようになってきました。「いい大学に入れるように、勉強を頑張らせないといけないと思っていたけど…」「将来につながるスキルを身に付けさせたくて、子どもが小さい頃からいろんな習い事をさせているけど…」など、親としてのスタンスや子どもとの関わり方に迷いが生じることもあるかもしれません。

そこで、自身も教育虐待のサバイバーで3歳の女の子のママでもあるライター、本庄葉子が、コーチングの専門家であるNPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんに教育虐待が起きるメカニズムや予防法、起きてしまったときのリカバリー法について根掘り葉掘り聞き倒しました。6回に渡ってお届けします。第3回は、子どもの「自分軸」を育てる方法です。

【ラインアップ】
第1回 遠方の私立小通学で頭痛体質 これも教育虐待?
第2回 親に自分軸があれば、子の心の痛みにも気付ける
第3回 子が親の顔色うかがうように 私の二の舞い避けたいが ←今回はココ
第4回 親の過干渉、子の学びを妨げる原因に
第5回 親の罪悪感と正当化は表裏一体 どちらも子には負担
第6回 子の生まれ持った気質、親の力で伸ばすには?

親の意に沿おうとする気質の子もいる

本庄:親が良かれと思って与えようとする環境を、子どもは無条件に受け入れてしまうことが多々あると思います。実際、私自身はそうしてきましたし、3歳になる私の娘にも、少しその傾向があります。3歳だと、まだ自分で判断して行動するのは難しいので、つい「こうすれば?」など親である私自身が方向を示してしまいがちなのですが、「指示する親と、それを受け入れる子ども」という関係が定着してしまうと、ゆくゆくは、私の母のように子どもを支配し、教育虐待をする親になってしまうのではないかと思うと心配で……。

菅原さん:前回、親が「自分軸」を持つべきだとお話をしました(関連記事:第2回)が、もちろん親だけでなく、子ども自身に「自分軸」を持たせることが非常に大切です。子どもの中にも、いろいろな気質の子がいますが、本庄さんやそのお子さんのように、親の意に沿おうとしてしまう気質の子もいます。「イヤイヤ期」と呼ばれるうちは誰でも自分の意思を表明するのですが、だんだん「ママとはうまくやった方がいい」などと処世術を学習するようになり、結果、顔色をうかがってしまうようになるんですね。そういうお子さんの場合は、小さいうちから茶わんの色などささいなことでも選択させ、本人の意思が出るような対話を心がけることが大切です。

本庄:なるほど、あれは私の処世術だったのですね! 本人の意思が出るような対話というと、「あなたはどれがいいと思うの?」「どれが好きなの?」と、ひたすら本人の意思を確認する、ということでしょうか。

菅原さん:大まかに言うとそうですね。子どもに選択肢を示してあげた上で、どれがいいのかを本人に決めさせる、ということです。

 将来を考えさせる上でも、小さなうちからいろいろなところに連れていったり、いろんな人やものに触れさせてあげたりする、といった働きかけがとても大切です。「いい大学さえ行かせれば将来は安心」などというのは、根拠のない思い込み。今後はますますそうなっていくでしょう。こうした世の流れを受け、中学生のお子さんを持つ私の知り合いは、「子どもが中学を卒業したら、日本の伝統工芸の職人に弟子入りさせる」と話しています。いろいろな伝統工芸を見せていたところ、子ども自身が「職人になりたい」という意思を示したからだそうです。

 子どもは何に反応を示すか分かりません。私の孫もまだ5歳ですが、親が美術館など、あちこち連れ歩いた結果、モネの絵にすっかりはまってしまい、次はゴッホを見に行く、なんて言っています。面白い体験をたくさんさせてあげて、数多くの選択肢を示してあげることが、子どもの「自分軸」を育てていく第一歩になると思います。ただし、選択肢を示す上で、注意しなければいけない大事なポイントがあります。

本庄:何でしょうか。

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【好評発売中!】
『中学受験させる親必読!
「勉強しなさい!」エスカレートすれば教育虐待』

(日経DUAL編、1430円、日経BP刊)

 子どもの幸せを願わない親はいません。「ちゃんと勉強しなさい!」「宿題やったの? 」など、時に語気を強めてしまうことがあるとしても、それは本来、わが子にしっかりとした学力をつけさせ、生きていく上での選択肢を広げてあげるためのはずです。

 ですが、度を越した態度で子どもに勉強を強制したり、子ども自身の意志を無視して、わが子の学力に見合わないほど偏差値の高い学校に進学するよう強要したりと、親の行動がエスカレートしてしまうと、子どもの自己肯定感は大きく下がります。そして、生涯にわたって暗い影を落とすほどの弊害を招いてしまう可能性があることが知られるようになってきました。(中略)

 子どもの年齢に関係なく、すべてのお父さん、お母さんに知ってほしい、教育虐待のリスクや予防策、子どもへの適切な関わり方などをまとめたのが本書です。(はじめにより)

【主な内容】

第1章 中学受験 親の関わり方次第で子の将来にマイナスになることも
・中学受験 親が知っておくべきメリット・デメリット
・家庭の関わり方次第で中学受験そのものが「よい学び」になる【中学受験の4つのメリット】
・「何でも親のせいにする子」になる危険性も【中学受験の4つのデメリット】

第2章 教育虐待を理解する
・不登校や引きこもりより心配なのは、ひたすら我慢し続ける子ども
・100年時代を生き抜く強さが身に付かないという弊害も
・読者向けアンケート「ぼく、じゆうな日が一日もないね…」
・「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?

第3章 教育虐待を防ぐために親が心掛けるべきこと
・子の幸せ見極め教育虐待を防ぐNGワード&考え方
・13のチェック項目で、教育虐待かどうかを見極める チェックリスト
・家庭を子どもにとって「安心な居場所」にするための6つのポイント

第4章 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る
・約30%が「教育虐待を受けた認識あり」。連鎖を危惧する声も
・教育虐待の影響は世代を超えて波及し続ける
・学歴志向が強い日本のシステムに根本の原因がある?

第5章 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」
・「かつては教育虐待していたかもしれない」と語る3人のママたちの体験談を紹介

第6章 中学受験のプロが伝えたいこと
(プロ家庭教師 西村則康さん)
・中学受験は子どもの成熟度が影響する
・中学受験はお母さんが笑顔なら、たいていはうまくいく

第7章 小児科医と心療内科医が伝えたいこと
(慶應義塾大学医学部小児科教授・小児科医 高橋孝雄さん)
・基本的な能力は遺伝子が担保。親は安心して
・成長して引きこもるケースも。意思決定力が「やりたい」アンテナ育てる

(「本郷赤門前クリニック」院長・心療内科医 吉田たかよしさん)
・増加する受験うつ その芽が出るきっかけとなるのが中学受験
・中学受験直後の心はどう受け止める? 
・難関校に合格した子ほどハイリスク。過信せず、努力し続けることが大事

(名古屋大学医学部附属病院准教授・心療内科医 岡田俊さん)
・夫婦関係や親のメンタル不調が子どものストレス源に
・中学受験 親自身が不調になることも

【Column】子どもの心のSOS発信マンガ 愛しているのにまさか私が教育虐待?

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