最近、「教育虐待」の問題が広く知られるようになってきました。「いい大学に入れるように、勉強を頑張らせないといけないと思っていたけど……」「将来につながるスキルを身に付けさせたくて、子どもが小さい頃からいろんな習い事をさせているけど……」など、親としてのスタンスや子どもの関わり方に迷いが生じることもあるかもしれません。

そこで、自身も教育虐待のサバイバーで3歳の女の子のママでもあるライター、本庄葉子が、コーチングの専門家であるNPO法人ハートフルコミュニケーション代表理事の菅原裕子さんに教育虐待が起きるメカニズムや予防法、起きてしまったときのリカバリー法について根掘り葉掘り聞き倒しました。6回に渡ってお届けします。第1回は、本庄自身の体験談です。
(日経DUAL特選シリーズ/2019年11月25日収録記事を再掲載します)

母の希望で小学校受験。3本の電車を乗り継ぐ通学で頭痛に悩まされるように

【体験談】

 私は母の強い希望で母の出身大学の附属小学校に受験をさせられました。年中からはそれまで習っていた英語やピアノに、受験のための“お教室”が2つ追加されました。ただ、その当時は「勉強するのが当たり前」になっていたため、苦痛はあまりなかったと思います。ただ、このことが原因なのか、幼稚園児の頃から、常に母の顔色を伺うようになってしまいました

常に学力優秀な優等生でいることを母に強いられた。写真はイメージ
常に学力優秀な優等生でいることを母に強いられた。写真はイメージ

 つらさを感じるようになったのは小学校に入学後、3本の電車を乗り継いで1時間かけて通学するようになってからです。毎日7時前の満員電車に乗り、低学年のうちは周りの大人にランドセルを肘置きにされたことも。中学年以降は高校生まで痴漢被害にもたびたび遭いました。だんだん、足を踏みつけるなど対抗手段を取るようになりましたが、そのためか男性への不信感は大人になるにつれ強くなりました。もちろんすべての男性がそうではないのは頭では理解していますが……。

 通学路は地元でも当時は治安の悪いと言われていた地域も通っていくため、痴漢被害以外にも神経をすり減らすことが多々ありました。また近所では私立小に通う子どもが少なかったため、制服姿というだけで注目を浴びましたし、盗撮されたことも。そのため常に不安感があり、電車や公共交通機関に乗る時は今でも気を抜けず、人の動きにとても敏感です

 知らないうちにストレスになっていたのか、小学3年生になるころには必ず金曜日に頭痛を訴えるようになり、母に鎮痛剤を飲まされていました。今、振り返ると、子どもに毎週鎮痛剤を与えなければいけない状況を危惧しなかったのか?という思いがあります。とはいえ、母にはまったく罪の意識はなかったと思います。「大学までついた私立の学校に行けば、今後の受験戦争に巻き込まれずのびのびと育つはずなので、女の子にとっていいこと」だと信じていました(実際は、親元を離れたいがために、実家から離れた“親が納得するレベルの”大都市の大学を受験しました)。ですから、母は私が鎮痛剤を飲んでいるのは、学校や通学にまつわるものとは露ほども思っていませんでした。

 4年生からは週に1回家庭教師が付くようになりました。どちらかといえば成績もよく優等生だったにもかかわらず、「のびのび」とは反対のベクトルだなと今では分かります。ですが、当時はやはり親の言う通りに、おっくうながらも受け入れていました【→このページの一番下をクリックして次ページへ】

【好評発売中】
『中学受験させる親必読!
「勉強しなさい!」エスカレートすれば教育虐待』

(日経DUAL編、1430円、日経BP刊)

 子どもの幸せを願わない親はいません。「ちゃんと勉強しなさい!」「宿題やったの? 」など、時に語気を強めてしまうことがあるとしても、それは本来、わが子にしっかりとした学力をつけさせ、生きていく上での選択肢を広げてあげるためのはずです。

 ですが、度を越した態度で子どもに勉強を強制したり、子ども自身の意志を無視して、わが子の学力に見合わないほど偏差値の高い学校に進学するよう強要したりと、親の行動がエスカレートしてしまうと、子どもの自己肯定感は大きく下がります。そして、生涯にわたって暗い影を落とすほどの弊害を招いてしまう可能性があることが知られるようになってきました。(中略)

 子どもの年齢に関係なく、すべてのお父さん、お母さんに知ってほしい、教育虐待のリスクや予防策、子どもへの適切な関わり方などをまとめたのが本書です。(はじめにより)

【主な内容】

第1章 中学受験 親の関わり方次第で子の将来にマイナスになることも
・中学受験 親が知っておくべきメリット・デメリット
・家庭の関わり方次第で中学受験そのものが「よい学び」になる【中学受験の4つのメリット】
・「何でも親のせいにする子」になる危険性も【中学受験の4つのデメリット】

第2章 教育虐待を理解する
・不登校や引きこもりより心配なのは、ひたすら我慢し続ける子ども
・100年時代を生き抜く強さが身に付かないという弊害も
・読者向けアンケート「ぼく、じゆうな日が一日もないね…」
・「教育熱心」と「教育虐待」線引きはどこに?

第3章 教育虐待を防ぐために親が心掛けるべきこと
・子の幸せ見極め教育虐待を防ぐNGワード&考え方
・13のチェック項目で、教育虐待かどうかを見極める チェックリスト
・家庭を子どもにとって「安心な居場所」にするための6つのポイント

第4章 被害者が加害者になる負の連鎖を断ち切る
・約30%が「教育虐待を受けた認識あり」。連鎖を危惧する声も
・教育虐待の影響は世代を超えて波及し続ける
・学歴志向が強い日本のシステムに根本の原因がある?

第5章 当事者が語る「こうして教育虐待から抜け出しました」
・「かつては教育虐待していたかもしれない」と語る3人のママたちの体験談を紹介

第6章 中学受験のプロが伝えたいこと
(プロ家庭教師 西村則康さん)
・中学受験は子どもの成熟度が影響する
・中学受験はお母さんが笑顔なら、たいていはうまくいく

第7章 小児科医と心療内科医が伝えたいこと
(慶應義塾大学医学部小児科教授・小児科医 高橋孝雄さん)
・基本的な能力は遺伝子が担保。親は安心して
・成長して引きこもるケースも。意思決定力が「やりたい」アンテナ育てる

(「本郷赤門前クリニック」院長・心療内科医 吉田たかよしさん)
・増加する受験うつ その芽が出るきっかけとなるのが中学受験
・中学受験直後の心はどう受け止める? 
・難関校に合格した子ほどハイリスク。過信せず、努力し続けることが大事

(名古屋大学医学部附属病院准教授・心療内科医 岡田俊さん)
・夫婦関係や親のメンタル不調が子どものストレス源に
・中学受験 親自身が不調になることも

【Column】子どもの心のSOS発信マンガ 愛しているのにまさか私が教育虐待?

日経BPショップでの購入はこちらから

AMAZONでの購入はこちらから