共働き子育て中は、食事の準備などが大きな負担になっている人も少なくないはず。「決まった時間に食べさせなくては」という義務感などがずっしりと肩にのしかかっていませんか? それはもしかすると、“常識”にとらわれているのかも。本連載では、クックパッドで働く傍ら「世界の台所探検家」として活動する岡根谷実里さんへのインタビューを通して、世界の食卓事情をお届けします。今回取り上げるのは、北東アフリカに位置するスーダンの自由な食卓。記事後半では、現地の料理「焼きなすとヨーグルトのサラダ」のレシピも紹介します。

世界の台所探検家って、何をする人?

ブルガリアでの料理風景。右が岡根谷実里さん
ブルガリアでの料理風景。右が岡根谷実里さん

日経DUAL編集部(以下、――) 岡根谷さんは「世界の台所探検家」という肩書で活動しています。具体的にはどんな活動なのですか?

岡根谷実里さん(以下、敬称略) 世界各地の家庭の台所を訪ね、現地の人たちと一緒に料理をしながら、そこで見つけた料理の楽しみや、食卓から見える社会背景を、メディアや学校での出張授業を通して伝えています。

―― 世界の台所事情は、家庭の中に入り込むから知ることのできる部分ですよね? 観光地を巡るのとは、また違った景色が見えてきそうです。

岡根谷 家庭の台所の面白さは、その土地ならではの暮らしが見えてくるところにあると思います。例えば、日本にいると「料理にまな板は必須」と思うかもしれませんが、まな板を使わずに料理をするのが当たり前という国もあります。調理道具やとれる食材の違いから、国の歴史や風土が浮き彫りになるんです。料理という誰にとっても身近な物差しがあるからこそ、感じられる面白さだと思います。

―― とはいえ、国も文化も違う家庭の中にいきなり入っていって料理をするというのは、誰もができることではありません。どうやってアポイントを取っているのですか?

岡根谷 大学時代から海外に興味があり、各国の留学生とよく交流していました。大学院ではウィーン工科大学に留学してさらに交友関係が広がりました。そうした海外にいる友人たちとのつながりで、紹介してもらっています。

―― 岡根谷さんは、異色のキャリアの持ち主ですよね。東京大学工学部社会基盤学科で土木工学を専攻し、留学や国連機関本部でのインターンを経て、現在は、クックパッドで働く傍ら世界の台所探検家として活動しています。食とは全く違うジャンルで勉強や仕事をしてきたのですね。

岡根谷 私の夢は、国際協力の一環として途上国などでインフラ整備をすることでした。ただ、国連インターンとしてケニアへ行くと、経済発展の裏で、自分たちの生活が開発により壊されてしまうことに憤慨する人々の姿がありました。そうした光景を目の当たりにし、自分のやりたいことが分からなくなってしまったのです。

 当時の私は、農業を営む8人家族の家で寝泊まりさせてもらっていました。そこで気づいたのは、開発に憤りを感じている中でも、夕飯で食卓を囲んでいるときの家族は笑顔だったということです。私自身、幼少期から祖母や母が作った料理を囲む夕飯の時間が好きだったこともあり、「おいしいごはんを食べる幸せは人類共通なんだ」と感じたことが、現在の仕事を考えるきっかけになりました。そこから、ライフワークとして世界の台所を訪問するようになったんです。

―― これまで訪れた国は、何カ国くらいですか?

岡根谷 留学中を含めると60カ国以上です。今回皆さんにぜひ紹介したいのは、「スーダンの台所」です。