子育て中は、食事の準備などが大きな負担になっている人もいるかもしれません。しかし視野を広げて世界に目を向けると、「食べること」に対する印象がこれまでとは少し違ってくるかも。本連載では、「世界の台所探検家」として活動する岡根谷実里さんへのインタビューを通して、世界の食卓事情をお届けします。今回取り上げるのはパレスチナ。肌寒い日に飲みたい、サハレップという中東のホットドリンクのレシピを紹介します。

「料理がおいしい」として知られるパレスチナ

パレスチナの代表料理「マクルーバ」
パレスチナの代表料理「マクルーバ」

日経DUAL編集部(以下、――) 今回は、中東パレスチナですね。「難民問題を抱える土地」というイメージが強いですが、食卓事情はどうでしたか?

岡根谷実里さん(以下、敬称略) 実際に行ってみて分かったのは、パレスチナが、周辺の国々から「料理がおいしい地域」として認識されていることです。政治的には複雑な感情を抱えるイスラエルの人であっても、「料理はパレスチナのほうがおいしい」と話していました。

―― そうなんですね。ちょっと意外な気がします。

岡根谷 パレスチナの料理がおいしいと言われている所以は、昔から交易があって、文化の交差点だったこと。気候が良くて多様で新鮮な食材が手に入ることなどが挙げられます。例えば、揚げ野菜と鶏肉と米を重ね、最後にひっくり返して食べる豪快な炊き込みご飯「マクルーバ」(上記画像)は、代表的な料理の一つ。あとは、イスラム教の休日である金曜日に催された親戚の集まりにお邪魔したときには、ヤギの脳みそをごちそうになりました。

―― 脳みそですか!? どんな味でした?

岡根谷 脂肪分が多くて白子のような味わいでした。

―― すごい……。現地ではどういったお宅に滞在したのですか?

岡根谷 3カ所のお宅にお邪魔しました。難民キャンプの中にあるお宅にも滞在していましたが、共通して印象に残っているのは、日本とは少し違う「家族のあり方」です。

―― 家族のあり方。

岡根谷 はい。「こんなにも素直に、家族は仲良くしていてもいいんだ」と思ったんですよね。日本だと、大人になってから家族と同居していると、周囲の人に「自立できていない」などとみなされたり、親戚同志が集まる場へ行くこと自体、照れくさいと感じることがあると思うんです。

 ですが、パレスチナで出会った人たちには、そうした感じがありませんでした。毎週、金曜日のランチに親戚同士が集まるという習慣を、みんなが自然なこと、当たり前のこととして受け止めていました。日常的にキスやハグをするような国民性ではないものの、自然体で家族というものを受け入れている姿が、「なんだか、かっこいいな」と思いました。

金曜日に、親戚などのファミリーで集まって食事をする様子
金曜日に、親戚などのファミリーで集まって食事をする様子