保育方針がハッキリしている園は保育士にとっても働きやすい

ちょび先生 保育方針は園長や施設長、経営者が定めるべきことなのですが、それがハッキリ定められていない園も多いですね。私の経験ですが保育方針が定まっていなかったり、定まっていても形式的で、それについて話し合いがなされていなかったりする園は、保育士同士の人間関係がこじれやすいような気がします。

―― それはなぜでしょうか。

ちょび先生 明確な保育方針が示されていれば、保育士たちはそれをもとに保育の考え方(保育観)を統一することができます。例えば「当園では経験を大事にします。危険を回避する力も育てます」というのが保育方針に含まれていたら、保育士たちはそれをもとに「ならば多少のケンカは見守ろう。その結果小さなケガをすることもあるかもしれない。けれど、そういう経験が危険を回避する力を育てる。ただし大ケガをする前に大人が介入しよう」と考えを統一していきます。

 一方、保育方針がハッキリ示されていなかったり、話し合う機会がなかったりして保育観を統一できないと、保育士は自分個人の保育観に基づいた保育をせざるを得ません。

 例えば、A先生は子ども同士がケンカしたときにいち早くとめて引き離すとします。一方でB先生は、ケンカをして学ぶことも大事だから、ケガにならないギリギリまで見守るという考え方。このように異なった保育をする先生が同じクラスを担当すると「どうしてケンカをとめないの?」「あなたは子どもの成長よりトラブル回避を優先している」みたいなことが出てくるわけです。

梅原志保さん(以下、うめ先生) 保育観の違いによる保育士同士のトラブルはよくありますね。

ちょび先生 保育士個人の保育観はその人の価値観に左右されます。そうすると、保育観の違いを指摘したときに、その人自身を否定することになってしまいます。そのため、人間関係がギスギスしてしまうのです。

 でも、園の方針があれば共通の保育観で保育ができます。保育士の取る行動も園の方針という物差しに合っているか、合っていないかで話ができます。これなら個人を否定することにならないので、保育士のメンタル的にもいいというわけです。園がしっかりした保育方針を示すことは、そこで働く保育士にとっても大切なことだと思います。

うめ先生 保育士の退職理由として人間関係が大きな理由の1つなのですが、保育園が保育方針をしっかり示して人間関係がこじれにくい職場をつくることは、潜在保育士を解消する1つの策にもなると考えています。

―― 複数の物差しがあると、子どもも混乱するかもしれません。保育方針に基づき、物差しが統一された中で保育されることは、子どもにとってもよいこと。だからこそ保育方針が示されていることが大切なのですね。