自分のスキルを生かして働く「プロ人材」の働き方を探る本連載。今回は高度な専門資格を持つ「士業」に注目しました。税理士として働く柏崎優子さん(42歳)は、子どもが生後6カ月の時に自分の事務所を開業しました。さらに副業として、企業2社の社外取締役のほか、総務コンサルティングの仕事なども引き受けています。開業に至る経緯を聞いた前編に続き、後編では両立の苦労や、「三刀流」で働く理由などについて聞きました。

(前編) 出産半年後に税理士として独立 3回の転職で夢実現
(後編) 三刀流で働く税理士ママ 副業では「人の縁」強化 ←今回はココ

周囲にモデルケースがなくて開業するか悩んだ

 2017年に出産した柏崎さんには、二つの選択肢がありました。開業するか、もう一度組織に所属するかです。周囲に「また働こうと思っている」と漏らすと、すぐに数社から「うちに来ないか」と誘いがかかりました。しかし柏崎さんは、子育てしながらだと組織で肩身の狭い思いをせざるを得ない、という思いをぬぐい切れませんでした。

 「子どもが熱を出して休むのは、母親のせいではないのに『すみません』と言いながら早退する女性たちを、ずっと見てきました。そんな思いをするかもしれないと思うと、勤め人に戻ることにはためらいがありました」

 いよいよ目標だった「開業」が現実味を帯びてきます。しかしここにもためらいが。

 「周りに子どもを産んで開業した女性、というモデルケースがいなかったんです」。はたして自分の実力で、税理士として一本立ちできるのか。子どもが熱を出しても、仕事を肩代わりしてくれる人はいないのに、両立できるのか……。

 柏崎さんは、以前勤めていた外資系税理士事務所の上司たちと会った時、悩みを打ち明けてみました。

【税務・会計のプロ人材 柏崎優子さんの経歴】
学生時代に税理士資格取得に向けた勉強を始める。在学中に3教科合格

布石1 2001年 情報通信関連メーカーに新卒で就職。経理職を担当
大企業の意思決定プロセスや稟議(りんぎ)の仕組みなどを知る

布石2 2004年 外資系商社の会計部門に転職。会計部門に配属
前職よりも規模が小さい会社だったので、決算業務全般に関わることができた

布石3 2008年 外資系の税理士事務所へ転職
「税理士」の道へ本腰を入れるための転職。外資系企業を中心に15~20社を担当。在所中に税理士資格を取得

布石4 2012年 税務の経験を積むため別の税理士事務所へ転職
前職よりもハードで「下働き」からのスタートだと分かっていたが、独立への道だと覚悟して就職。在所中に結婚。2016年に退職

2017年 出産。半年後に自分の税理士事務所を立ち上げる
2018年 2社の社外取締役に就任
2019年 プロ人材派遣のビズ・ディレクターズに登録。1社でバックオフィスのコンサルタントとして関与している