子育てを考慮していない会議時間の設定はやめるべき

 管理職になると業務範囲が増え、組織が大きければ大きいほど、さまざまな立場の人の意見を聞かなくてはならない。社内では小さい子を育てる大原さんを気遣い、励ましの声をかけてくれる人も多いと言うが、働き方においては、自分1人の裁量ではどうにもならない部分もまだあるという。

 「例えば会議の時間設定は、社会全体で考えるべき課題の一つだと思いました。チーム内での会議はメンバーが調整してくれて午前中にできることが増えましたが、部門をまたがる会議で、以前から夕方の開催が定例だったものに関しては、なかなか『行けない』とは言いづらいですね。

 また、私は部長の代理で行政機関の会議に出席することもありますが、開始時刻が16時ということもあります。これは子育てを考慮していない時間設定。1人や2人の力ではなかなか難しいかもしれませんが、少しずつでも声を上げて、この国全体の意識を変える必要性を感じます」

 壁にぶつかりながらも、一歩ずつ前に進んでいく大原さん。これから子育てをする社内の後輩たちに、意識して伝えていることがあるという。

 「私がなんでもやるから両立できている、とは思わせたくない。『管理職ママはスーパーウーマン』という時代ではもうありません。だから『昨日は忙しかったから夕飯は納豆ご飯だったよ』なんてことまで隠さずに話しています(笑)。女性が昇進することをためらわないようになれば、世の中も変わっていくはず。私自身も課長になって1年弱で、日々迷いを感じており、正直、『やりがいを感じる』ところにまで至っていません。でも『役職が人を育てる』と信じて続けていきたいです

性差なく活躍できる社会づくりに関わりたい

 大原さんの会社では、中枢である鉄道部門(鉄道の運行を支える部署)にはまだまだ女性が少ない。

 「理由はいろいろと考えられますが、『トラブルが起きたら24時間いつでも対応にあたらねばならない』というイメージから、家庭との両立が難しいと、敬遠されているのかもしれません。でも共働き家庭が増える中、男性だからといって必ずいつでも現場に駆けつけられるわけではないですよね。今後は性別にかかわらず対応できるように、会社として仕組みをアップデートしていく必要があると感じています」

 コロナ禍で在宅勤務が増え、運輸収入も落ち込んでいる。大原さんは「新規事業を立ち上げて会社に貢献することが当面の課題」と意気込む。最近では、駅構内で視覚障がい者をナビゲーションするシステム「shikAI」の開発・サービス導入や、東京メトロ沿線およびオンライン上でのeスポーツジム事業への参入などに関わった。総務系の部署から新規事業という畑違いの部門に移って1年弱。新たな発見もあった。

 「新規事業部門にいると、消費者や利用者のニーズが多様化していると感じますが、世の中はまだまだ『働き手の男性と専業主婦の妻と子ども2人』といった昔ながらの家族像に最適化した仕組みを前提にしている気がします。それが会社や社会の課題となって現れているのではないでしょうか。管理職として社内の意思決定に関わっていくことで、性差なく活躍できる会社づくり、社会づくりに携わっていきたいです」

取材・文/樋口可奈子 写真/小野さやか