部下のための時間は「週1面談」で確保

 時短勤務で会社にいる時間が短い中、部下の相談や報告のための時間をどのように確保し、部署全体のパフォーマンスを上げていくかは課題の1つ。「相談してほしいときにいてくれない」という事態が続くと、部下のモチベーションも下がってしまう恐れがある。

 「業務の相談はその都度声をかけてもらい、社外にいるときも社用スマホでメールの確認はしています。抱えているプロジェクトの緊急度を確認し、『今日中に終わらせる必要のある案件なら、退社後でもメールを送ってくれれば確認しますよ』と伝えています。実際には、夕方に問題が発生し、その日のうちに対応しなくてはならないという事案はそんなに多くはなく、報告だけ受けて『明日また相談しましょう』というケースがほとんどです」

 そのほか、「毎週金曜にメンバー1人ひとりと個別に相談をする時間を、1人当たり30分程度設けています。業務の相談だけでなく、『最近どう?』とか『どんな1週間だった?』など、人間関係のメンテナンス的な意味合いも込めて聞いています。悩んでいることや疑問に思っていることを打ち明けてもらえるように、比較的ラフな感じでやっていますね」。

 エン・ジャパンの社員は1年に1回、性格やストレス耐性、キャリアへの価値観などを把握する適性テストを受けている。田中さんは、部下の業務の習熟度に加えて、この適性テストの結果も参考にしながら、タイミングを見て1人ひとりに声をかけることを習慣にしている。

「例えば『自律型』のメンバーであれば、仕事の進め方はある程度本人に任せ、細かい指示出しはせず、必要なタイミングで相談に乗ります。『協調型』のメンバーの場合はなるべくコミュニケーション頻度を高めて一緒に進めるスタイルを取ります」

部下からの「寂しいです」の言葉で目が覚めた

 こうしたマネジャーとしての仕事術を生み出すまでには、試行錯誤もあったという。「最初は失敗も少なくありませんでした。以前、年齢が一回り違う若いメンバーを受け入れたことがあります。そのときも時短勤務だったのですが、その子に『寂しいです』と言われてしまいました。彼女にしてみれば、私は年齢が離れていて話しにくい上、完璧に見えて弱みもなさそう、もっと話がしたいのにできない、と。それが寂しいという言葉になったんだと思うんですね。

 自分が時間に追われていると、そういうメンバーの気持ちをすくい取ってあげられない、ということに気がついたのは、この失敗を通してでした。これが、毎週個別に対面する時間を設けて、話ができる関係性をつくるという、今のやり方につながりました」

 時間に追われているからこそ、部下とのコミュニケーションを最優先にするのが田中さんのポリシー。後編では、田中さんの仕事と育児の両立術のほか、時短勤務の管理職を増やしてきたエン・ジャパンの人事制度について、人事担当者へのインタビューも含めて解説する。

取材・文/平林理恵 写真/長谷川清哲